マクスウェルの関係式とは?|四つの状態量を結ぶ熱力学の基本式

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内部エネルギーエンタルピーエントロピーは重要な物理量でありながら、測定が困難であるという欠点があります。

もし、これらが測定が容易な圧力温度、体積などといった物理量に置き換えることができたなら、非常に便利であると言えます。

この目標の一歩目となるのが、熱力学の一般関係式の基本となるマクスウェルの関係式です。

マクスウェルの関係式

$p,V,T,S$ を圧力・体積・温度・エントロピーとして、以下のマクスウェルの関係式が成立する。

$$
\left\{
\begin{split}
\ff{\del T}{\del V}&=-\ff{\del p}{\del S} \EE
\ff{\del T}{\del p}&=\ff{\del V}{\del S} \EE
\ff{\del S}{\del V}&= \ff{\del p}{\del T}\EE
\ff{\del S}{\del p}&=-\ff{\del V}{\del T} \EE
\end{split}
\right.
$$

今回は、マクスウェルの関係式の導出過程について解説します。まずは、熱力学の一般関係式の説明から始めます。

まずは、複数の状態量の間に成立する関係について考えていきましょう。

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熱力学の一般関係式とは?

系の状態量(圧力温度・体積・エントロピー等)は、独立に変化するのではなく、一定の関係に基づいて変化します。したがって、ある状態量は他の状態量の関数となるということが言えます。

ここで疑問を持つのは、ある状態量は何個の独立変数により記述できるのか?ということです。

この疑問は、閉じた系で初期質量が成分数だけ与えられているとき、相の数・成分の数・化学反応の数に依らず、系の安定平衡状態は $2$ つの独立変数により記述される。』という、デュエムの定理により解決されます。(デュエムの定理は熱力学関数の存在の数学的根拠ともなります)

デュエムの定理

閉じた系にて初期質量が成分数だけ与えられているとき、
相の数・成分の数・化学反応の数に依らず、
系の安定平衡状態は $2$ つの独立変数により記述される

デュエムの定理の証明に今回は踏み込みませんが、成立することを認めたうえで議論を進めていきます。

さて、デュエムの定理から平衡状態でのある状態量 $z$ は $2$ つの独立変数 $x,y$ の二変数関数、$z=z(x,y)$ として表せます。

なお、$x,y,z$ の間にはいくつもの関係式が物質の種類や状態(固体・液体・気体)に関わらず任意の物質に対して成立するため、熱力学の一般関係式と呼ばれます。

熱力学の一般関係式

物質の種類や状態(固体・液体・気体)に関わらず任意の物質に対して成立する関係式のこと

それでは、熱力学の一般関係式の導出方法について考えていきましょう。

まず、状態変数 $z$ に微小な変化が生じて、$z+\diff z$ になったとします。すると、微小変化 $\diff z$ を全微分により

\begin{eqnarray}
\diff z=\ff{\del z}{\del x}\diff x+\ff{\del z}{\del y}\diff y \tag{1}
\end{eqnarray}

と書けます。熱力学の一般関係式では、微係数 $\DL{\ff{\del z}{\del x},\ff{\del z}{\del y}}$ が $p,V,S$ などの状態量との対応関係となります。

例えば、状態量を $A,B$ としてこの対応を明示すると、

$$
\left\{
\begin{split}
&\,A= \ff{\del z}{\del x}\\[8pt]
&\,B= \ff{\del z}{\del y}
\end{split}
\right.
$$

となります。さらに、$A,B$ が連続関数であることより以下の等式が成立し、

\begin{split}
\ff{\del^2 z}{\del y \del x} &= \ff{\del^2 z}{\del x \del y} \EE
\end{split}

したがって、

\begin{split}
\ff{\del A}{\del y} &= \ff{\del B}{\del x}
\end{split}

とできます。

ところで、系が平衡状態にあるとき、$\diff z=0$ なので、式$(1)$ を変形して、

\begin{split}
0&=\ff{\del z}{\del x}\ff{\del x}{\del y}+\ff{\del z}{\del y} \EE
\end{split}

とでき、ここに $\DL{A= \ff{\del z}{\del x},B= \ff{\del z}{\del y}}$ を適用して

\begin{eqnarray}
\ff{\del x}{\del y}\cdot\ff{A}{B}=-1 \tag{2}
\end{eqnarray}

となります。

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相反の関係式・循環の関係式とは?

前述の結果から、相反の関係式循環の関係式呼ばれる有用な関係式が導けます。

相反の関係式・循環の関係式

偏微分とその偏微分の逆数は等しくなる。すなわち、以下の相反の関係式が成立する。

\begin{eqnarray}
\ff{\del x}{\del y}=\ff{1}{\DL{\ff{\del y}{\del x}}}
\end{eqnarray}

$3$ 個の状態量 $x,y,z$ に対して以下の関係式が成立し、これを循環の関係式と呼ぶ。

\begin{split}
\ff{\del x}{\del y}\ff{\del y}{\del z}\ff{\del z}{\del x} =-1 \\
\,
\end{split}

まずは、相反の関係式の導出過程について見ていきます。まず、$x$ が $y,z$ の二変数関数 $x(y,z)$ ともできることに注目すると、以下のように全微分ができて、

\begin{eqnarray}
\diff x=\ff{\del x}{\del y}\diff y+\ff{\del x}{\del z}\diff z \tag{3}
\end{eqnarray}

これに $(1)$ に適用して整理すると、

\begin{eqnarray}
\left(\ff{\del z}{\del y}+\ff{\del z}{\del x}\ff{\del x}{\del y} \right)\diff y=\left(1-\ff{\del z}{\del x}\ff{\del x}{\del z} \right)\diff z
\end{eqnarray}

今、$y,z$ を独立変数と考えているため、上式は $y,z$ に関わらず成立する恒等式とならなければなりません。したがって、左右の辺のカッコ内は $0$ となる必要があり、

\begin{eqnarray}
\ff{\del x}{\del z}=\ff{1}{\DL{\ff{\del x}{\del z}}}
\end{eqnarray}

このように、偏微分の逆数は一致することとなります。この関係式を相反の関係式と呼びます。

相反の関係式

偏微分とその偏微分の逆数は等しくなる。すなわち、以下の相反の関係式が成立する。

\begin{eqnarray}
\ff{\del x}{\del y}=\ff{1}{\DL{\ff{\del y}{\del x}}} \\
\,
\end{eqnarray}

循環の関係式とは?

次に循環の関係式の導出過程について見ていきます。さて、式$(2)$を改めて $x,y,z$ の偏微分として書き下すと、

\begin{split}
\ff{\del x}{\del y}\ff{\del z}{\del x}\ff{1}{\DL{\ff{\del z}{\del y}}} =-1
\end{split}

となります。これに対して先程求めた相反の関係式を適用すると、

\begin{split}
\ff{\del x}{\del y}\ff{\del y}{\del z}\ff{\del z}{\del x} =-1
\end{split}

という、きれいな関係式を導くことができます。この関係式を循環の関係式と呼びます。

循環の関係式

$3$ 個の状態量 $x,y,z$ に対して以下の関係式が成立し、これを循環の関係式と呼ぶ。

\begin{split}
\ff{\del x}{\del y}\ff{\del y}{\del z}\ff{\del z}{\del x} =-1 \\
\,
\end{split}

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マクスウェルの関係式とは?

これまでの成果をもとに、圧力・体積・温度・エントロピーの間で成立する熱力学の一般関係式である、マクスウェルの関係式を導くことができます。

まず、内部エネルギーとエンタルピーの全微分を考えると定義より、

\begin{split}
\diff U&=T\diff S-p\diff V \EE
\diff H &= T\diff S+V\diff p
\end{split}

の関係にあり、これより

$$
\left\{
\begin{split}
\ff{\del T}{\del V}&=-\ff{\del p}{\del S} \EE
\ff{\del T}{\del p}&=\ff{\del V}{\del S}
\end{split}
\right.
$$

の関係にあることが分かります。ここで、ヘルムホルツの自由エネルギーギブスの自由エネルギーについても全微分を行うと、

\begin{split}
\diff F&=-p\diff V-S\diff T \EE
\diff G&= V\diff p-S\diff T
\end{split}

であり、これより、

$$
\left\{
\begin{split}
\ff{\del p}{\del T}&=\ff{\del S}{\del V} \EE
\ff{\del V}{\del T}&=-\ff{\del S}{\del p}
\end{split}
\right.
$$

の関係式が導けます。

これらの結果から、測定が困難なエントロピーを測定が容易な圧力・温度・体積を用いて表示できることが分かります。

これらの関係式をマクスウェルの関係式または、マクスウェルの熱力学的関係式と呼びます。

マクスウェルの関係式

$p,V,T,S$ を圧力・体積・温度・エントロピーとして、以下のマクスウェルの関係式が成立する。

$$
\left\{
\begin{split}
\ff{\del T}{\del V}&=-\ff{\del p}{\del S} \EE
\ff{\del T}{\del p}&=\ff{\del V}{\del S} \EE
\ff{\del S}{\del V}&= \ff{\del p}{\del T}\EE
\ff{\del S}{\del p}&=-\ff{\del V}{\del T} \EE
\end{split}
\right.
$$

目標としていたマクスウェルの関係式の導出に成功しました。

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ギブス・ヘルムホルツの方程式

マクスウェルの関係式を導いたついでに、ギブス・ヘルムホルツの方程式についても導いていきます。

再び、ヘルムホルツの自由エネルギーギブスの自由エネルギーの全微分を行うと、

$$
\left\{
\begin{split}
\diff F&= \ff{\del F}{\del V}\diff V+\ff{\del F}{\del T}\diff T \\[8pt]
\diff G&= \ff{\del G}{\del p}\diff V+\ff{\del G}{\del T}\diff T
\end{split}
\right.
$$

であるので、

\begin{split}
S &=-\ff{\del F}{\del T}= -\ff{\del G}{\del T}
\end{split}

であることが分かります。

定義より、$F=U-TS,\,G=H-TS$ であるので、変形して、

$$
\left\{
\begin{split}
-S &= \ff{F-U}{T} \EE
-S &= \ff{G-H}{T}
\end{split}
\right.
$$

の関係にあるため、これより、

$$
\left\{
\begin{split}
F-U &= T\ff{\del F}{\del T} \\[8pt]
G-H &= T\ff{\del G}{\del T}
\end{split}
\right.
$$

という関係式が導けます。この関係式はギブス・ヘルムホルツの方程式と呼ばれます。

ギブス・ヘルムホルツの方程式

ヘルムホルツの自由エネルギー $F$ とギブスの自由エネルギー $G$ として、
以下のギブス・ヘルムホルツの方程式が成立する。

$$
\left\{
\begin{split}
F-U &= T\ff{\del F}{\del T} \\[8pt]
G-H &= T\ff{\del G}{\del T}
\end{split}
\right.
$$

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