熱力学第二法則とは?|第二種永久機関はなぜ作れない?

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熱力学第二法則は、原理的に第二種永久機関が作れないことを教えてくれる法則です。

熱力学第二法則は次のように述べられます。

熱力学第二法則

以下の主張は全て等価であり、これらは熱力学第二法則の異なる表現である。

トムソンの原理
一様な温度の一つの熱源から熱を取り込み、そのの全てを仕事に変換し、
それ以外に何の変化も残さないような過程は実現できない。

クラウジウスの原理
低温の物体から高温の物体にを移すのみで、
それ以外に何の変化も残さないような過程は実現できない。

プランクの原理
摩擦によりが発生する現象は不可逆である。

オストヴァルトの原理
第二種永久機関は実現不可能である

今回は熱力学第二法則の中でも重要なトムソンの原理クラウジウスの原理について解説し、それらが等価であることを示します。

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プロローグ:第二種永久機関はなぜできない?

もし、$100\,\%$ の熱効率を達成できるのであれば、人類にとって非常に有用です。このような熱機関のことを、第二種永久機関と呼び、今でもその実現に取り組む人々が大勢います。

ここでは、第二種永久機関が実現できるのか、について簡単に考えてみましょう。

我々は経験上、熱機関を動作させるには、高温熱源と低温熱源を用意しなければならないことを知っています。

仮に、低温側に熱を放熱しなくても良いのなら、熱効率は $100\,\%$ となるため、第二種永久機関が実現できます。

しかしながら、熱を放熱する過程が無ければ系を元の状態に戻せないため、熱機関をきちんと動作させるために、低温熱源への放熱が必要となります。

このような制約がある中で、第二種永久機関を得るための様々な工夫が行われましたが、熱効率 $100\,\%$ の熱機関、すなわち第二種永久機関は得られませんでした。

このことから、第二種永久機関はどうやら作れそうになく、それを禁止する法則があるのだろうと考えられるようになりました。

今後は第二種永久機関が作れないという経験的事実を原理として、この原理から何が言えるのかを見ていきましょう。まずは、この原理のいくつかの表現について見ていきます。

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トムソンの原理とクラジウスの原理

第二種永久機関が作れないという原理にはいくつかの表現があります。

ここでは、トムソンの原理クラジウスの原理について紹介します。まず、トムソンの原理は次のように述べられます。

トムソンの原理

一様な温度の一つの熱源から熱を取り込み、そのの全てを仕事に変換し、
それ以外に何の変化も残さないような過程は実現できない。

第二種永久機関は、一つの熱源から得た熱の全てを仕事に変換する熱機関であるため、トムソンの原理は第二種永久機関を作れないことの原理的な説明になります。

なお、それ以外に何の変化も残さないという点がトムソンの原理のミソであり、例えば理想気体の等温膨張は取り込んだ熱の全てを仕事に変える過程ですが、これだけでは気体の膨張という変化が残るため、熱機関としてこの過程を繰り返すことができません。

熱機関として繰り返し使えるようにするには、得た熱を全て仕事に変えて初期位置に戻って来る必要がありますが、それが原理的に不可能であることを主張しています。

また、伝熱工学では熱が高温側から低温側へ移動することを暗黙の了解として理論を構築していきましたが、トムソンの原理がその背景にあったのです。

もう一つの原理である、クラウジウスの原理は次のように述べられます。

クラウジウスの原理

低温の物体から高温の物体にを移すのみで、
それ以外に何の変化も残さないような過程は実現できない。

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トムソンの原理とクラウジウスの原理の等価性

トムソンの原理とクラウジウスの原理が等価であることを示します。その方法として、対偶を活用した方法を採用します。

まず、トムソンの原理からクラウジウスの原理を導くことを考えます。この場合は、以下の対偶を採った命題を証明すれば良いと言えます。

『何の変化も残さず低温源から高温源の物体に熱を移す過程が存在する』ならば『何の変化も残さず一様な温度の一つの熱源から熱を取り込み、取り込んだ熱の全てを仕事に変換する過程が存在する』

クラウジウスの原理の模式図

さて、図のように高温源と低温源の間で動作するカルノーサイクルと、低温源から高温源に何の変化も残さず、熱を移せる過程 $X$ の組み合わせた系について考えます。

このとき、カルノーサイクルは高温側から $Q_1$ の熱を受け取り、低温源に $Q_2$ の熱を捨て、$W=Q_1-Q_2$ の仕事をしたとします。

一方、クラウジウスの原理に違反する過程 $X$ が存在するならば、低温源から $Q_2$ の熱を受け取り高温源に $Q_2$ の熱を何の変化も残さず移動させることができます。

したがって、この系全体では正味として $Q_1-Q_2$ の熱を受け取ってその全てを仕事に変換したことになります。つまり、何の変化も残さずに受け取った熱全てを仕事に変換する過程が実現できることになります。

題意の対偶が示せました。これより、『トムソンの原理が成立するならば、クラウジウスの原理も成立する』ことが分かります。

つぎに、クラウジウスの原理からトムソンの原理が導けることを示します。この場合は、以下の対偶を採った命題を証明すれば良いと言えます。

『何の変化も残さず一様な温度の一つの熱源から熱を取り込み、取り込んだ熱の全てを仕事に変換する過程が存在する』ならば『何の変化も残さず低温源から高温源の物体に熱を移す過程が存在する』

トムソンの原理の模式図

さて、高温源から何の変化も残さず、取り込んだ熱の全てを仕事に変換できる過程 $X$ と、低温源と高温源の間で動作する逆カルノーサイクルの組み合わせた系について考えます。

このとき、逆カルノーサイクルは低温源から $Q_1$ の熱を受け取り、大きさ $W$ の仕事をされて、高温源に $Q_1+W$ の熱を捨てているとします。

一方、トムソンの原理に違反する過程 $X$ が存在するならば、高温源から $Q_2$ の熱を受け取り高温源に $W=Q_2$ の熱を何の変化も残さず移動させることができます。

これらを組み合わせることで、正味 $Q_1$ の熱を何の変化も残さずに低温源から高温源に移すことができます。

題意の対偶が示せました。これより、クラウジウスの原理が成立するならば、トムソンの原理も成立する』ことが分かります。

以上より、トムソンの原理とクラウジウスの原理は等価であることが示されました。

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熱力学第二法則とは?

前述のように、トムソンの原理とクラウジウスの原理が等価であることから、どちらを採用しても同じことが言えることが分かります。

熱力学の世界では、これらはひとまとめとして熱力学第二法則と呼ばれています。

よく知られた熱力学第二法則の表現は、トムソンの原理によるものですが、複数の表現が存在します。ここでは、以下に熱力学第二法則の等価の表現を示します。

熱力学第二法則

以下の主張は全て等価であり、これらは熱力学第二法則の異なる表現である。

トムソンの原理
一様な温度の一つの熱源から熱を取り込み、そのの全てを仕事に変換し、
それ以外に何の変化も残さないような過程は実現できない。

クラウジウスの原理
低温の物体から高温の物体にを移すのみで、
それ以外に何の変化も残さないような過程は実現できない。

プランクの原理
摩擦によりが発生する現象は不可逆である。

オストヴァルトの原理
第二種永久機関は実現不可能である

これらの表現から分かるように、熱力学第二法則は『第二種永久機関は原理的に作れない』ことを表しています。

この不思議な性質から何が導けるのかを今後は具体的に考えていきます。この過程でエントロピーの概念に出会うことになります。

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