最小作用の原理とは?|解析力学の基本原理①【ハミルトンの原理】

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今回は解析力学基本原理である最小作用の原理(ハミルトンの原理)について解説します。

最小作用の原理

時刻 $t_0,t_1$ において $q$ の値、$q(t_0)=\A,\,\,q(t_1)=\beta$ を指定したとき、
$t_0\leq t\leq t_1$ の間で実現される系の運動は、作用 $I[q]$

\begin{split}
I[q]=\int_{t_0}^{t_1}L\big(q,\dot{q},t \big)\diff t
\end{split}

が最小となるような軌跡となる。ただし、$L$ をラグランジアンとする。

最小作用の原理自体は『基本原理』であるため他の何かから導かれるような物ではありませんが、どうして作用なるものを考えるのかについて、雰囲気が掴めるような説明を行っていきます。

まずは、物理学の核心に関わる概念である『力』の正体について改めて考えてみます。

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『力』とは何か?

古典力学ニュートンの運動法則の上に成立している学問です。

これらの運動法則の中には『力』という単語が出てきますが、よくよく考えると『力』の正体については何も語られてはいません。

そのような背景の中、力とは何か?という根本的な問いについて物理学者の間で議論されるようになりました。

この議論は活力論争と呼ばれており、$17\sim 18$ 世紀にかけて激論が交わされました。詳細についてはこちらに譲りますが、物体の不可入性と慣性から力が生じていると結論付けられました。

また、生じる力は常に物体同士の侵入を防ぐのに必要な、最小の大きさであることも導けます。

力と軌跡

再び、ニュートンの運動法則に話を戻します。

これら3つの法則の内、運動の法則から運動方程式を規定できて、運動方程式を解くことで物体に作用する力とその軌跡を計算できます。このように、運動方程式は力から軌跡を求める方法を規定します。

さて、ここに活力論争の考え方を適用すると、力と軌跡の関係を反転させて、『考えうる軌跡の内、物体同士に働く力が最小となるような軌跡が実現される』という仮説を立てることができます。

回りくどい言い回しの仮説ですが、何か有意義な結果が得られることを期待して議論を進めることにします。

ところで、この仮説に真正面から取り組むことは難しそうです。そこで、視点を物体の移動時間にスライドさせ、移動時間が最小になるように物体を運動させたとき、どのような軌跡となるのか?について考えることにします。

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最速降下曲線とオイラーの方程式

さて、前述の問題設定は、『二点間をつなぐコースの中で、ゴールまで最も速くたどり着くのはどんな曲線か?』という表現に整理できます。

この曲線は考えうる曲線の中で、最も早くゴールにたどり着くことから最速降下曲線と呼ばれています。

最速降下曲線の導出こちらで詳しく解説しているので、その導出については今回割愛します。

最速降下曲線と通過時間

ここでは、導出過程で現れるある関係式に注目します。具体的には、$\RM{A}$ と $\RM{B}$ の間を $y=f(x)$ で結んだときの通過時間 $I$ に着目します。

\begin{split}
I[f] = \int_{A}^{B} \sqrt{ \frac{ f'(x)^2 + 1 }{ 2g\cdot f(x) }}\,\diff x
\end{split}

$f$ の形状により $I$ が変わることを明示するため、$I[f]$ としています。

最速降下曲線の問題では、全ての曲線の中で $I$ が最小となるような $f(x)$ を導出することが主題となります。が、今回はそこには立ち入らず、上式を抽象化したときに何が言えるかを見ていきます。

抽象化するに当たっては上式の平方根重力加速度を無視して、$f(x),f'(x),x$ のみに注目します。すると、被積分関数を $G\big(f(x),f'(x),x\big)$ と表示できます。

つまり、最速降下曲線の問題は一般には、

\begin{split}
I[f] = \int_{A}^{B} G\big(f(x),f'(x),x\big)\,\diff x
\end{split}

を最小とする $f$ を求める問題と言い換えることができます。

この $I$ が最小となるように計算を進めていくと、最終的には次のオイラーの方程式

\begin{eqnarray}
\frac{\diff}{\diff x}\left( \frac{\partial G}{\partial y’} \right)- \frac{\partial G}{\partial y} = 0 \tag{1}
\end{eqnarray}

を満たせば良いことが導けます。(ただし、$y=f(x),y’=f'(x)$ とします)

オイラーの方程式

$2$ 点 $\RM{A},\,\RM{B}$ 間を結ぶ最速降下曲線 $y=f(x)$ は、
以下のオイラーの方程式を満たす。

\begin{eqnarray}
\frac{\diff}{\diff x}\left( \frac{\partial G}{\partial y’} \right)- \frac{\partial G}{\partial y} = 0 \\
\,
\end{eqnarray}

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最小作用の原理とは?

最速降下曲線の導出過程より、オイラーの方程式を満たす$f$ を求めれば良いことが分かります。

さて、最速降下曲線では移動時間を最小にすることに主眼を置いていましたが、これを一般化させて、何らかの物理量を最小化させるような軌跡はオイラーの方程式を満たすという仮説を立てることとします。

※ この仮説は『考えうる軌跡の内、物体同士に働く力が最小となるような軌跡が実現される』という仮説の具体化となっています。

問題は最小化される物理量 $I$ は何か?という点です。これについては各瞬間での力が最小となるという活力論争の結論から類推して、考えうる全ての軌跡の中で、系が実際に辿った軌跡はエネルギーが最小となっていると予想できます。

したがって、$I$ はエネルギーの次元を持つと言え、変数として時間を持つと考えられます。これより、$I$ を

\begin{split}
I[q] = \int_{t_0}^{t_1} L\big(q,\dot{q},t\big)\,\diff t
\end{split}

とできます。ここでは表示を変えて $G$ を $L$ とし、$f$ を $q$ としています。(最速降下曲線とは異なることを明示するためです)また、$q'(t)$ はニュートンの記法を用いて $\dot{q}$ と表示できることも活用しています。

そして、上式の積分で表される $I$ のことを作用と呼ぶことにします。

作用とは?

以下の積分で表される汎関数 $I$ を作用と呼ぶ。

\begin{split}
I[q] = \int_{t_0}^{t_1} L\big(q,\dot{q},t\big)\,\diff t \\
\,
\end{split}

作用を定義すると、先述の仮説を作用を最小化させるような軌跡はオイラーの方程式を満たすと言い換えることができます。

ここまでの議論は確かに仮説に過ぎません。ところが、現実に運動の様子を観察すると、$I$ が最小となる軌跡となっていることが分かってきました。

このような事実から、前述の仮説を原理にまで格上げし、最小作用の原理と名づけることにします。

最小作用の原理

時刻 $t_0,t_1$ において $q$ の値、$q(t_0)=\A,\,\,q(t_1)=\beta$ を指定したとき、
$t_0\leq t\leq t_1$ の間で実現される系の運動は、作用 $I[q]$

\begin{split}
I[q]=\int_{t_0}^{t_1}L\big(q,\dot{q},t \big)\diff t
\end{split}

が最小となるような軌跡となる。ただし、$L$ をラグランジアンとする。

最小作用の原理では表現をエレガントにし、スタートとゴールの位置そして移動時間を決めると、作用が最小となるような軌跡が実現されるとしています。

また、$L$ にはラグランジアンと呼ぶことにします。$L$ の具体的な形については今後考えていくこととします。

最小作用の原理とオイラー・ラグランジュ方程式

最小作用の原理を認めると、変分原理より $L$ はオイラーの方程式を満たします。つまり、式$(1)$ の $x$ を $t$、$G$ を $L$、$y$ を $q$ として、

\begin{eqnarray}
\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\partial L}{\partial \dot{q}} \right)- \frac{\partial L}{\partial q} = 0
\end{eqnarray}

という関係式が導けます。これはまさにオイラー・ラグランジュ方程式となります。

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