揚力とジューコフスキー翼周りの流れ|翼周りの流れの解析⑤

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ジューコフスキー翼周りの流れの解析を行い、翼に作用する揚力の起源について考察します。

また、出発渦束縛渦そしてクッタの条件について解説します。これらから、揚力が飛行機に作用する原理を理解できるようになります。

ジューコフスキー翼に作用する揚力

クッタ条件ジューコフスキーの仮説)を満たすジューコフスキー翼には、
次の大きさの揚力が生じる。

\begin{split}
F_y&=4\pi \rho U^2 a \sin(\A-\Be)
\end{split}

ただし、$\rho$ を流体の密度、$U$ を一様流の流速、$\A$ を迎角とする。

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ジューコフスキー翼周りの流れ

まずは、ジューコフスキー翼周りの流れの様子から見ていきます。

さて、一様流中に置かれた円柱を適切にジューコフスキー変換すると、図のようなジューコフスキー翼が得られます。

また、一様流に対してもジューコフスキー変換を行うことができ、二つを合わせることで、ジューコフスキー周りの流れの流線が得られます。

一様流中に置かれたジューコフスキー翼周りの流れ

迎角が $0$(翼弦線と一様流が平行)のときの様子が上図になります。よどみ点は翼上の二か所に存在しています。このとき、循環が存在しないため、翼には水平方向にも垂直方向にも力は作用しません。このように言える理由については、ダランベールのパラドックスにて、詳しく解説しています。

ここで、迎角を $\A$ としたとき、よどみ点の位置がどのように変化するのかを見ていきます。

迎角を $\A$ としてたときの、流線を実際に描くと下図のようになります。

迎角を持つジューコフスキー翼周りの流れ

図から分かるように、よどみ点の位置が変化しています。特に、よどみ点が翼上面に沿って移動していることに注目してください。

そして、後縁を回り込むポイントで流速が無限大になることが、翼に揚力が生じる理由を考える上で重要なポイントになります。

※ 後縁で流速が無限大になることは、後ほど数学的に示します。

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出発渦と束縛渦とは?

先程、後縁にて流速が無限大になるということを述べましたが、あくまでも計算上の結果であり、現実にこのような流れが実現することはありえません。

後縁周辺でどのようなことが起きるのか、順を追って解説していきます。

始めの状態では、後縁付近で流速が非常に大きい一方で、よどみ点にて流速が $0$ となっているため、後縁周辺での速度勾配は非常に大きくなっています。

翼後縁の速度勾配

考えている流れは、二次元ポテンシャル流れであるため、流体は非粘性かつ非圧縮性理想流体ですが、小さいながらも粘性を持つ非圧縮性流体の流れを表すと近似的に考えるとします。

このような流体を考えると、後縁での速度勾配に起因したせん断応力が作用することになり、流れは不安定になります。そして、不安定な流れは最終的に翼上面にてを形成します。

なお、後縁に生じるこの渦を出発渦と呼びます。

出発渦

ところで、ヘルムホルツの渦定理という循環に関する理論があり、この定理に従うと『ポテンシャル流れの循環は保存される』という結論が導けます。

今、流れの渦度が $\B{0}$ であるため、出発渦により生じた循環を打ち消すような、新たな循環流が自然に発生することになります。

新たに生じる循環流は翼周りに残り続けるため、束縛渦と呼ばれます。

束縛渦

さて、出発渦は一様流に乗って流れ去るため、束縛渦のみが残ります。このようにして、翼の周りには自然と束縛渦が生じることになります。

大事なポイントは、『非圧縮性流体と見なせる流体の、一様流を受けるジューコフスキー翼には自然に出発渦と束縛渦が生じる』ということです。

空気はマッハ $0.3$ 以下であれば非圧縮性流体と見なせるため、これまでの考察を基本的には適用できます。

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クッタの条件とは?

今後の議論の準備として、ジューコフスキー翼の後縁にて流速が無限大になることを証明します。

まず、$z_c=-x_c+iy_c\,\,\,(x_c,y_c>0)$ として、迎角 $\A$ の一様流と、循環流(回転流)を持つ円柱周りの流れの複素速度ポテンシャルは、次のように記述できす。

\begin{split}
w&=U(z-z_c)e^{-i\A}+\ff{Ua^2}{(z-z_c)e^{-i\A}}+i\ff{\Gamma}{2\pi}\log\big\{(z-z_c)e^{-i\A}\big\}
\end{split}

ただし、$a=\sqrt{(1+x_c)^2+y_c^2}$ を満たすとします。

ジューコフスキー変換の幾何学的関係

このとき、ジューコフスキー翼への変換条件より、ジューコフスキー変換の式を、

\begin{split}
\zeta=z+\ff{1}{z}
\end{split}

と置くことができます。

以上より、ジューコフスキー翼上の複素速度を次のように計算できます。

\begin{split}
q&=\ff{\diff w}{\diff \zeta}=\ff{\diff w}{\diff z}\ff{\diff z}{\diff \zeta}=\ff{\diff w}{\diff z}\ff{1}{\diff z/\diff \zeta} \EE
&= \ff{Uz^2e^{-i\A}}{(z-1)^2(z-z_c)^2}\left\{(z-z_c)^2+\ff{i\Gamma e^{i\A}}{2\pi U}(z-z_c)-a^2e^{2i\A} \right\}
\end{split}

今、$z$ は $z_c$ を中心とする半径 $a$ の円周上を動くため、$z\neq z_c$ ですが、$a$ に関する条件より この円は $z=1$ にて交点を持ちます。

ゆえに、ジューコフスキー翼は $z=1\,\,(\zeta=2)$ に相当する点で複素速度が無限大になることが言えます。この位置は、翼の後縁に相当します。先程は証明無しに後縁で流速が無限になると説明しましたが、数学的な裏付けが得られました。

クッタの条件

ここで $z-z_c = ae^{i\q}$ として先述の式を整理すると、

\begin{split}
q&= \ff{Ue^{-i\A}}{a^2e^{2i\q}(ae^{i\q}+z_c-1)^2}\left\{a^2e^{2i\q}+\ff{i\Gamma e^{i\A}}{2\pi U}ae^{i\q}-a^2e^{2i\A} \right\}
\end{split}

となります。さて、上式は束縛渦が生じた状態のジューコフスキー翼周りの流速を表していますが、このままでは、後縁にて流速が無限大になるという物理学的に不合理な結果を解消できません。

この不合理を解消するために、クッタにより、『翼後縁によどみ点が来るような条件で、循環の大きさを定める』ことが提唱されました。この条件をクッタの条件と呼びます。

クッタの条件に従って、循環の大きさを具体的に計算していきます。

今、$ae^{i\q}=1-z_c$ を満たすような $\q$ を $-\beta$ とします。

このとき、クッタの条件より、以下の式が成立し、

\begin{split}
0&=a^2e^{-2i\Be}+\ff{i\Gamma e^{i\A}}{2\pi U}ae^{-i\Be}-a^2e^{2i\A}
\end{split}

複素三角関数を利用して、

\begin{split}
\Gamma&=4\pi Ua \sin(\A+\Be)
\end{split}

と導けます。

実際に、この大きさの循環を適用すると、翼周りの流線は図のようになり、よどみ点が後縁に一致していることが確認できます。

クッタの条件とジューコフスキー翼周りの流れ

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ジューコフスキー翼に生じる揚力

マグヌス効果を解説する際にも物体に作用する揚力を計算しましたが、今回も翼に作用する揚力を計算していきます。

さて、翼に作用する揚力 $F_y$ は、クッタ・ジューコフスキーの定理より次のように与えられます。

\begin{split}
F_y&=\rho U \Gamma
\end{split}

これより、クッタの条件を満たす翼に作用する揚力は、

\begin{split}
F_y&=4\pi \rho U^2 a \sin(\A+\Be)
\end{split}

と求められます。

さらに揚力は、翼の断面積を $S$、揚力係数を $C_L$ として

\begin{split}
F_y&=\ff{1}{2}C_L\,\rho U^2 S
\end{split}

とも表されます。2式を比較することで、揚力係数を

\begin{split}
C_L=\ff{8\pi a\sin(\A+\Be)}{S}
\end{split}

とすることができます。これより、迎角の変化に応じて揚力係数が変化することが分かります。このときの揚力係数の変化は正弦関数として表されることが分かります。

揚力係数の迎角に対する変化

このグラフから、迎角に応じた揚力が生じることが分かります。なお、実際の揚力係数の変化については、実験的に調べられています。

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