危険速度の導出|ダンカレーの実験公式・レイリーの公式【共振の物理学】

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飛行機のジェットエンジンや発電機の中では、羽のついた軸が高速で回転しています。このように回転運動を行う機械のことを回転機械と呼びます。回転機械は身の回りにたくさんあり、冷蔵庫やエアコン、自動車の中にも入っています。

さて、回転機械の回転速度をどんどん上げていくとある回転数で突然、回転軸が大きく振動する現象が起きます。この回転速度を危険速度と呼び、回転機械を設計する際には危険速度を避けて設計することが求められます。

危険速度による事故の例として、1972年に関西電力海南火力発電所で発生した事故が挙げられます。

この事故はタービンの試運転中に起きました。

軸のバランス調整に失敗し、意図せずタービンを危険速度で回転させてしまったために事故は起きたのです。発電所のタービンは直径が$2$~$3\, \RM{m}$で長さ$6$~$10\, \RM{m}$の軸に取り付けられた巨大な機械です。

人間がぶら下がろうと、びくともしない頑丈な軸が破損するなど想像もできませんが、どんなに頑丈な軸でも危険速度で回転させればいとも簡単に破壊されてしまうのです。

危険速度で回転させただけで軸が破壊されてしまうことを不思議に感じるでしょう。もちろん、その背景には物理学があります。理論的な説明は後ほど行いますが、危険速度 $\omega_n$ は回転軸のばね定数を $k$、質量を $M$ として次のように表せます。

危険速度

\begin{eqnarray}
\omega_n = \sqrt{\ff{k}{M}} \\
\,
\end{eqnarray}

キーワードは、強制振動共鳴です。これらについては、以下の記事で解説しているので、興味のある方は合わせて読むと理解が深まると思われます。

今回は危険速度がこのように表せる理由について解説し、合わせて危険速度の近似式を紹介します。

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ふれまわり運動とは?

まずは、質量の無視できる軸に円盤を取り付けた系を考えます。

このような構造をロータと呼び、下の図は一つの円板で構成されたロータになります。

重心のずれた円盤

このとき、円板の中心から$r$だけ離れた位置に重心があるとします。

加工精度の問題で、完全に対称な部品を現実には作ることができません。これをモデル化すると重心が偏心した円板となる訳です。

さて、軸を回転させると円盤の重心に引張られ、軸のたわみは大きくなります。たわみが無いときの軸線の位置を原点として、変形後の様子を軸線と平行な方向から見ると、円板の様子は下図のようになります。

回転中のローターの様子

ポイントは、たわんだ軸は弾性により元の位置に戻ろうとすることです。この様子はばねとしてモデル化できるため、ばねにつながれた円板が回転するように図示できます。

運動方程式

回転の様子を運動方程式で表しましょう。

ここで、円板の回転の角速度を$\omega$、円板の質量を $M$、慣性モーメントを $I$、軸のばね定数を $k$ とします。また、円板の中心$S$の座標を$(x_S, y_S)$、円板の重心$G$の座標を$(x_G, y_G)$とします。

これらの条件の下で、円板の運動についての運動方程式を立てていきます。

$x, y$ 方向の並進運動に関しては、重心を質点と見なした運動方程式として表せるため、

$$
\left\{
\begin{split}
&M\ddot{x_G} + kx_S = 0 \\[5pt]
&M\ddot{y_G} + ky_S = 0 \EE
\end{split}
\right. \tag{1}
$$

とできます。

→時間微分の記法(ニュートンの記法)について

ここで、$S$と$G$の関係は以下の様になります。(直線$SG$が$x$軸と水平となる時刻を$t=0$としています。)

$$
\left\{
\begin{split}
&x_G(t) = x_S(t) + r\cos \omega t \EE
&y_G(t) = y_S(t) + r\sin \omega t \EE
\end{split}
\right.
$$

これを式(1)に代入すると、

$$
\left\{
\begin{split}
&M\Big( \ddot{x_S}\, -\, r\omega^2 \cos \omega t \Big) + kx_S = 0 \EE
&M\Big( \ddot{y_S}\, -\, r\omega^2 \sin \omega t \Big) + ky_S = 0 \EE
\end{split}
\right.
$$

とできて、整理すると、

$$
\left\{
\begin{split}
& \ddot{x_S} + \ff{k}{M}x_S = r\omega^2 \cos \omega t \\[6pt]
& \ddot{y_S} + \ff{k}{M}y_S = r\omega^2 \sin \omega t \EE
\end{split}
\right. \tag{2}
$$

となります。運動方程式を導くことができました。

さらに、$\DL{\ff{k}{M}} = \omega_n^2$として、運動方程式を書き換えておきます。

一つの円板で構成されたロータの運動方程式

$$
\left\{
\begin{split}
& \ddot{x_S} + \omega_n^2x_S = r\omega^2 \cos \omega t \\[6pt]
& \ddot{y_S} + \omega_n^2y_S = r\omega^2 \sin \omega t \EE
\end{split}
\right.
$$

また、$\omega_n = \DL{\sqrt{\ff{k}{M}}}$のことを固有振動数と呼びます。

強制振動

運動方程式が導けたので、$x_S, y_S$について具体的に解いていきましょう。

運が良いことに、この微分方程式は強制振動の一般解を求めた際、解いていました。その結果を流用すると、

$$
\left\{
\begin{split}
& x_S(t) = A\sin\left(\omega_n t+ \alpha \right)+\ff{r\omega^2}{\omega_n^2\,- \omega^2}\cos\omega t \\[6pt]
& y_S(t) = A\sin\left(\omega_n t+ \alpha \right)+\ff{r\omega^2}{\omega_n^2\,- \omega^2}\sin\omega t \EE
\end{split}
\right.
$$

とできます。

$A$は定数のため、右辺第一項については円板の角速度に関係なく存在します。現実には回転軸の支持端で振動が吸収されるため、右辺第一項は時間経過と共に$0$になります。(ダンパーの役割を果たすため)

したがって、振幅の大きさに関しては右辺第二項のみを考えれば良いと言えます。今、振動数比を$\eta$(イータ)とし、$\eta = \DL{\ff{\omega}{\omega_n}}$とすると、右辺第二項は、

$$
\left\{
\begin{split}
& x_S(t) = \ff{\eta^2}{1\,- \eta^2}r\cos\omega t \\[6pt]
& y_S(t) = \ff{\eta^2}{1\,- \eta^2}r\sin\omega t \EE
\end{split}
\right. \tag{3}
$$

とでき、これら式から、軸心$S$半径$\DL{\ff{\eta^2 r}{1-\eta^2}}$ の円軌道上を運動することが分かります。

さらに、前述の$S$と$G$の関係式より、円板の重心の位置に関しては、

$$
\left\{
\begin{split}
& x_G(t) = \ff{1}{1\,- \eta^2}r\cos\omega t \\[6pt]
& y_G(t) = \ff{1}{1\,- \eta^2}r\sin\omega t \EE
\end{split}
\right. \tag{4}
$$

と求められます。

これらの式から、円板の重心も半径$\DL{\ff{r }{1-\eta^2}}$ の円を描く軌道であることが分かります。今、式(3)・(4)の位相(=$\omega t$)が一致していることから、原点$O$と$S, G$ が常に一直線上にあると言えます。

このように原点・軸心・円板の重心が一直線に並ぶ運動をふれまわり運動と呼びます。

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危険速度

軸心の半径$\RM{OS}$と円板の重心の半径$\RM{OG}$について考えましょう。先述の計算より、それぞれの半径の大きさは、

\begin{split}
& \RM{OS} = \left| \ff{\eta^2}{1-\eta^2} \right|r \\[6pt]
& \RM{OG} = \left| \ff{1}{1-\eta^2} \right|r \EE
\end{split}

とでき、それぞれの半径の変化をグラフで表すと、下図のようになります。

振動数比の変化による回転半径の変化

この図から、回転軸の角速度 $\omega$ がロータの固有振動数 $\omega_n$ に近づくにつれ、半径が急激に大きくなり、最終的に半径(振幅)が無限大の大きさになることが確認できます。

実際には軸受けなどによる減衰があるので、無限大になることはありません。が、$\eta$が$1$に近づけば、ふれまわり運動の回転半径は急激に大きくなることを理解できます。

このように固有振動数 $\omega_n$ では軸のたわみが非常に大きくなり、軸が破損する危険にさらされるため、$\omega_n$ のことを危険速度と呼ぶのです。

危険速度

軸の質量を $M$、ばね定数を $k$ として、危険速度 $\omega_n$ は次のように表される。

\begin{eqnarray}
\omega_n = \sqrt{\ff{k}{M}} \\
\,
\end{eqnarray}

自動調心作用

もう少し、軸の回転の様子について観察してみましょう。

さて、無事に危険速度を超えると、$\RM{OS}$と$\RM{OG}$は減少し、$\RM{OS}>\RM{OG}$ になることが読み取れます。すなわち、$\eta > 1$ では位置関係が逆転し、円板の重心が軸心よりも内側で回転することになるのです。

回転速度ごとの回転半径を図示すると、下図のようになります。

角速度に対応したふれまわり運動の回転半径

軸の回転速度をさらに上げ、$\omega_n \ll \omega$となると、円板の重心の回転半径はより小さくなります。重心が原点付近を中心に回転する様子は、偏心のない円板が回転するのと同じ状況であるため、機械全体としての振動も抑制されます。

重心が自動的に原点付近で回転するようになるため、この作用を自動調心作用と呼びます。

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危険速度の近似式

円板が軸の中央に取り付けられている場合での危険速度を具体的に計算してみましょう。軸の長さを$l$、軸のヤング率を$E$、支持方法を単純支持とすると、こちらで解説したように、軸のたわみ $\delta$ は次のように表せました。($g$は重力加速度)

\begin{eqnarray}
\delta &=& \ff{Mgl^3}{48EI} \\
\end{eqnarray}

$Mg = k\delta$ と比較すると、ばね定数 $k$ が次のように表、

\begin{eqnarray}
k &=& \ff{48EI}{l^3} \\
\end{eqnarray}

従って、危険速度は、

軸中央に取り付けられた円板の危険速度

\begin{eqnarray}
\omega_n = \sqrt{\ff{48EI}{Ml^3}} \\
\,
\end{eqnarray}

と計算できます。

ダンカレーの実験公式

実際の回転機械には、回転軸にたくさんの部品が取り付けられており、また、支持条件も簡単には定式化できません。

そのような状況のため、回転軸全体の固有振動数を理論的に決定することは困難です。そこで、近似的に危険速度を求める手法が良く使われます。この節では、良く使われる近似公式であるダンカレーの実験公式について紹介します。

多数の円板を持つ回転軸

上図のように$N$個の円板を持つ回転軸を考えます。

軸全体の固有振動数を $\omega_n$ として、軸のみの危険速度を$\omega_0$、軸に円板 $i$ のみを取り付けた時の危険速度を $\omega_i$ とすると、$\omega_n$ は次のように近似できることが知られています。

ダンカレーの実験公式

\begin{eqnarray}
\ff{1}{\omega_n^2} = \ff{1}{\omega_0^2}+\ff{1}{\omega_1^2}+\cdots + \ff{1}{\omega_N^2} \\
\,
\end{eqnarray}

この公式はダンカレーの実験公式と呼ばれています。ダンカレーによって実験的に求められた公式ですが、意外と精度は高く、$3$~$4\, \%$ 程度の誤差で危険速度を計算できます。

レイリーの公式

ダンカレーの実験公式は経験式のため、理論的裏付けはありません。

そこで、エネルギー保存則に基づいて、理論的に危険速度を近似する方法を考えましょう。

まずは、振幅が$A$で角速度 $\omega$ で振動している質量 $M$ の物体を考えます。このとき、物体の運動エネルギー $T$ は、

\begin{eqnarray}
T = \ff{1}{2}M\left( A\omega\cos \omega t \right)^2
\end{eqnarray}

と表せて、この物体がばね定数 $k$ のばねに吊るされて振動しているとき、そのポテンシャルエネルギー $U$ は、

\begin{eqnarray}
U = \ff{1}{2}k\left( A\sin \omega t \right)^2
\end{eqnarray}

と表せます。この系の力学的エネルギーは保存されるため、

\begin{eqnarray}
T+U &=& \ff{1}{2}M\left( A\omega\cos \omega t \right)^2 + \ff{1}{2}k\left( A\sin \omega t \right)^2 = const.
\end{eqnarray}

となり、力学的エネルギーは時間に関係なく保存されるため、$t=0, \pi/2$での力学的エネルギーを等号で結べて、

\begin{split}
&\ff{1}{2}M\omega^2A^2 = \ff{1}{2}kA^2 \EE
&\therefore \, \omega = \sqrt{ \ff{k}{M} }
\end{split}

と導けます。

角速度が危険速度と一致していることに注目してください。

この結果を複数の円板が取り付けれた回転軸の場合に当てはめましょう。

各円板の質量を$M_1, M_2, \cdots M_N$、円板の取り付け位置でのばね定数を$k_1, k_2, \cdots, k_N$とします。また、軸が回転していない状態での各円板の取り付け位置でのたわみを$\delta_1, \delta_2, \cdots, \delta_N$とします。

ここで、軸を回転させたときの形状は、重力のみによるたわみとは異なるはずですが、近似的に等しいと仮定します。以上より、ある角速度$\omega$で軸を回転させたときの、それぞれの円板の変位$y_i$は次のように表せて、

\begin{eqnarray}
y_i = \delta_i \sin \omega t
\end{eqnarray}

よって、軸と円板全体の力学的エネルギー $E$ を、

\begin{eqnarray}
E=\sum_{i=1}^N \ff{1}{2}M_i\left( \delta_i\omega\cos \omega t \right)^2 + \sum_{i=1}^N \ff{1}{2} k_i\left( \delta_i\sin \omega t \right)^2
\end{eqnarray}

と表せます。

先ほどと同様、$t=0, \pi/2$での力学的エネルギーを等号で結べて、

\begin{eqnarray}
\omega^2 \sum_{i=1}^N \ff{1}{2}M_i \delta_i^2 = \sum_{i=1}^N \ff{1}{2}k_i \delta_i^2
\end{eqnarray}

とできます。

ばね定数$k_i$については、$M_i g = k_i \delta_i$と近似できるため、

\begin{eqnarray}
\omega^2 \sum_{i=1}^N M_i \delta_i^2 = \sum_{i=1}^N \ff{M_i g}{\delta_i} \delta_i^2
\end{eqnarray}

とでき、以上より $\omega$ を

\begin{eqnarray}
\omega = \sqrt{ \ff{g\DL{\sum_{i=1}^N} M_i \delta_i}{\DL{\sum_{i=1}^N} M_i \delta_i^2} }
\end{eqnarray}

とできます。このことから、危険速度$\omega_n$ が次のように表せます。

レイリーの公式

\begin{eqnarray}
\omega_n = \sqrt{ \ff{g\DL{\sum_{i=1}^N} M_i \delta_i}{\DL{\sum_{i=1}^N} M_i \delta_i^2} } \\
\,
\end{eqnarray}

エネルギー保存則から危険速度を近似した式をレイリーの公式と呼びます。

※ $\delta_i$に関しては、直接測定か材料力学的に計算することで求めます。


ダンカレーの実験公式やレイリーの公式を紹介しましたが、より正確な危険速度を知りたい場合は、実験やシミュレーションにより求めることになります。

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