ブラシウスの公式とクッタ・ジューコフスキーの定理|翼周りの流れの解析⑥

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クッタ・ジューコフスキーの定理ブラシウスの公式について解説します。

クッタ・ジューコフスキーの定理は、ポテンシャル流れの中に置かれた物体に作用する揚力について主張した定理です。 

クッタ・ジューコフスキーの定理

二次元ポテンシャル流れの中に物体を置いたとき、物体には流れに対して垂直方向の力、すなわち揚力 $F_y$ が働く。なお、任意の断面形状に対して、揚力の単位長さ当たりの大きさは一定となる。

\begin{split}
F_y=\rho U \Gamma
\end{split}

ただし、$\rho$ を流体の密度、$U$ を流速、$\Gamma$ を循環の大きさとする。

任意の断面形状に作用する揚力が、循環と流速だけで定められるという、驚くべき結果を主張しています。クッタ・ジューコフスキーの定理を証明するため、ブラシウスの公式を利用します。

今回はブラシウスの公式についても解説し、クッタ・ジューコフスキーの定理の証明も行います。

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クッタ・ジューコフスキーの定理とは?

クッタ・ジューコフスキーの定理とは、次のような定理です。

クッタ・ジューコフスキーの定理

二次元ポテンシャル流れの中に物体を置いたとき、物体には流れに対して垂直方向の力、すなわち揚力が働く。なお、任意の断面形状に対して、揚力の単位長さ当たりの大きさは一定となる。

\begin{split}
F_y=\rho U \Gamma
\end{split}

で表される。ただし、$\rho$ を流体の密度、$U$ を流速、$\Gamma$ を循環の大きさとする。

クッタ・ジューコフスキーの定理は、循環と揚力の関係を示す式です。任意の断面形状周りに作用する揚力が、流体の密度・一様流の流速・循環の大きさだけで定まるという主張がポイントになります。

クッタ・ジューコフスキーの定理の典型的な例が、マグヌス効果になります。

次節から、クッタ・ジューコフスキーの定理の証明を行っていきます。その準備として、ブラシウスの公式について解説します。

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ブラシウスの公式とは?

最初に閉曲線に作用する圧力を考えます。図のような閉曲線を考え、線素 $\diff s$ を取り出します。

線素に作用する静圧を $p$ とすると、線素に作用する力を $f=p\diff s$ と近似できます。なお、静圧は線素の法線方向から作用しています。

このとき、$f$ を鉛直方向と水平方向に分解できて、以下のようになります。

$$
\left\{
\begin{split}
\,\,f_x&=-p\sin \q \diff s\EE
\,\,f_y&=p\cos \q \diff s
\end{split}
\right.
$$

複素平面上でこれらの力を考えると、$f$ を一本の式で表せ、

\begin{split}
f&=f_x+if_y\EE
&=-p\sin \q \diff s+ip\cos \q \diff s \EE
&=ip(\cos \q+i\sin \q)\diff s
\end{split}

ここで、オイラーの公式を用いると、線素に作用する力を

\begin{split}
f&=ipe^{i\q}\diff s
\end{split}

とまとめられます。

ブラシウスの第一公式

ブラシウスの定理

$\diff s$ と $\diff x, \diff y$ については、次のような幾何学的関係を持ちます。

$$
\left\{
\begin{split}
\,\,\diff z&=\diff x+i\diff y\EE
\,\,\diff x &= \cos\q\diff s \EE
\,\,\diff y &= \sin\q\diff s \EE
\end{split}
\right.
$$

よって、$\diff s$ と $\diff z$ は、

\begin{split}
\diff z &= \diff x+i\diff y \EE
&= (\cos\q+i\sin\q)\diff s \EE
\therefore\,\, \diff z &= e^{i\q}\diff s
\end{split}

の関係を持ちます。以上より、線素に作用する力は、さらに

\begin{split}
f&=ip\diff z
\end{split}

とできます。

複素速度の幾何学的関係

ところで、複素速度を $q$ として、ベルヌーイの定理より

\begin{split}
&p+\ff{1}{2}\rho q^2 = k\EE
\therefore\,&p=k-\ff{1}{2}\rho\left(\ff{\diff w}{\diff z} \right)^2
\end{split}

とできます。なお、$k$ を定数とします。そして、複素速度ポテンシャルを $w$ とすると、複素速度には

\begin{split}
q=\ff{\diff w}{\diff z}
\end{split}

の関係があるため、線素に作用する力 $f$ を

\begin{split}
f&=i\left\{k-\ff{1}{2}\rho\left(\ff{\diff w}{\diff z} \right)^2 \right\}\diff z
\end{split}

とできます。これより、閉曲線上に作用する力を周回積分により、

\begin{split}
F_x+iF_y&=i\oint_C \left\{k-\ff{1}{2}\rho\left(\ff{\diff w}{\diff z} \right)^2 \right\}\diff z \EE
&= \ff{i\rho}{2}\oint_C k\diff z-\ff{i\rho}{2}\oint_C \left(\ff{\diff w}{\diff z} \right)^2\diff z
\end{split}

となり、右辺第一項に関してはコーシーの積分定理より、$0$ となるので、

\begin{split}
F_x+iF_y&= -\ff{i\rho}{2}\oint_C \left(\ff{\diff w}{\diff z} \right)^2\diff z
\end{split}

とできます。この結果をブラシウスの第一公式と呼びます。

ブラシウスの第一公式

物体に水平方向と垂直方向に作用する力を $F_x, F_y$ とする。

このとき、ポテンシャル流れの中に置かれた物体に作用する力を、

\begin{split}
F_x+iF_y&= -\ff{i\rho}{2}\oint_C \left(\ff{\diff w}{\diff z} \right)^2\diff z
\end{split}

と記述できる。ただし、$w$ を複素速度ポテンシャル、$\rho$ を流体の密度とする。

ブラシウスの第二公式

物体に作用する原点周りのモーメントについて考えます。

まず、原点回りのモーメントは $M=xf_y+yf_x$ とでき、これに先述の関係式を当てはめると、

\begin{split}
M=px\diff x+py\diff y
\end{split}

とできます。

ところで、$-izf$ を考えると、

\begin{split}
-izf&=-i(x+iy)(f_x+if_y)\EE
&=(xf_y+yf_x)+i(-xf_x+yf_y)
\end{split}

となるので、$M=\RM{Re}(-izf)$ であることが分かります。以上より、

\begin{split}
M&=\RM{Re}(-izf)\EE
&=\RM{Re}\left(-iz\cdot i\left\{k-\ff{1}{2}\rho\left(\ff{\diff w}{\diff z} \right)^2 \right\}\diff z \right) \EE
&=\RM{Re}\left(\left\{k-\ff{1}{2}\rho\left(\ff{\diff w}{\diff z} \right)^2 \right\}z\diff z \right)
\end{split}

となり、これに周回積分を実行して、次のようなブラシウスの第二公式を導けます。

ブラシウスの第二公式

ポテンシャル流れに置かれた物体に作用するモーメントは次のように記述される。

\begin{split}
M&= \RM{Re}\left(\ff{\rho}{2}\oint_C \left(\ff{\diff w}{\diff z} \right)^2z\diff z\right)
\end{split}

ただし、$w$ を複素速度ポテンシャル、$\rho$ を流体の密度とする。

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クッタ・ジューコフスキーの定理の証明

クッタ・ジューコフスキーの定理ブラシウスの第一公式を用いて証明します。

今、任意の断面形状を表す閉曲線を $C$ とします。

クッタジューコフスキーの定理

このとき、$C$ 周りの複素速度を、

\begin{split}
\ff{\diff w}{\diff z}=q=\sum_{n=-\infty}^{\infty}a_nz^n
\end{split}

のように表せます。物理的な観点からは、$z\to\pm\infty$ にて流速が無限大になることは不合理なため、$n>1$ の項の係数は $0$ とならなければなりません。ゆえに、

\begin{split}
\ff{\diff w}{\diff z}=q=a_0+\ff{a_{-1}}{z}+\sum_{k\,=\,-2}^{\infty}a_kz^k
\end{split}

と表せます。

この状況の下、ブラシウスの第一公式を適用すると断面に作用する力を求めることができ、

\begin{split}
F_x+iF_y&= -\ff{i\rho}{2}\oint_C \left(\ff{\diff w}{\diff z} \right)^2\diff z\EE
&= -\ff{i\rho}{2}\oint_C \left( a_0^2+\ff{2a_0a_{-1}}{z}+\ff{a_{-1}^2}{z^2}+\cdots\right)\diff z
\end{split}

となります。ここで、コーシーの積分定理を適用すると、$\DL{\ff{1}{z}}$ の項だけが生き残り、

\begin{split}
F_x+iF_y&= -i\rho a_0a_{-1} \oint_C \ff{1}{z}\diff z
\end{split}

となります。さらに留数定理を用いることで、この周回積分を

\begin{split}
F_x+iF_y&= 2\pi\rho a_0a_{-1}
\end{split}

と求めることができます。さて、$C$ 周りの複素速度ポテンシャルは、

\begin{split}
w=a_0 z+a_{-1}\log z+\cdots
\end{split}

とでき、

したがって、$C$ に作用する力は、一様流の流速と回転流の大きさだけで決まることが分かります。

ところで、複素速度ポテンシャルは一般に、

\begin{split}
w=Uz+i\ff{\Gamma}{2\pi}\log z+\cdots
\end{split}

と表せるので、

\begin{split}
F_x+iF_y&= 2\pi\rho a_0a_{-1} \EE
&= 2\pi\rho \cdot U\cdot i\ff{\Gamma}{2\pi} \EE
&= i\rho U \Gamma
\end{split}

と導けます。以上より、揚力 $F_y$ が

\begin{split}
F_y=\rho U \Gamma
\end{split}

であると言えます。クッタ・ジューコフスキーの定理を示せました。

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ブラシウスの公式の例題

ブラシウスの公式を用いて、物体に作用する力とモーメントを求めてみます。

今回は例として、回転する円柱周りの流れが次のような複素速度ポテンシャルで表される場合を考えます。

\begin{split}
w=U\left(z+\ff{a^2}{z}\right)+i\ff{\Gamma}{2\pi}\log z
\end{split}

このとき、

\begin{split}
\ff{\diff w}{\diff z} &= U-\ff{Ua^2}{z^2}+i\ff{\Gamma}{2\pi}\ff{1}{z}
\end{split}

\begin{split}
\left(\ff{\diff w}{\diff z}\right)^2 &= U^2+i\ff{\Gamma U}{\pi}\ff{1}{z}-\ff{\Gamma^2}{4\pi^2}\ff{1}{z^2} \EE
&-\ff{2U^2a^2}{z^2}-i\ff{2Ua^2\Gamma}{2\pi}\ff{1}{z^3}-\ff{U^2a^4}{z^4}
\end{split}

であるので、ブラシウスの第一公式より、円柱に作用する力は

\begin{split}
F_x+iF_y&= -\ff{i\rho}{2}\oint_C \left(\ff{\diff w}{\diff z} \right)^2\diff z \EE
&=i\rho U \Gamma
\end{split}

となります。一方、原点周りのモーメントは、ブラシウスの第二公式より、

\begin{split}
M&= \RM{Re}\left(\ff{\rho}{2}\oint_C \left(\ff{\diff w}{\diff z} \right)^2z\diff z\right) \EE
&=\RM{Re}\left(-2i\pi\left(\ff{\Gamma^2}{4\pi^2}+2U^2a^2\right) \right)\EE
&=0
\end{split}

となり、モーメントは作用しないことが分かります。

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