複素関数の積分とは? 定義と性質【複素解析】

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今回は複素関数の積分について、その定義と性質について解説します。

複素関数の積分は、線積分として次のように定義されます。

複素線積分の定義

$f(z)$ を1価の連続関数とし、$t_a$ と $t_b$ を繋ぐ曲線 $C$ を考える。

このとき、

$\DL{\int_C f(z) \diff z}$

を $C$ に沿った線積分と定義し、$C$ を積分路と呼ぶ。

また、$f\big(z(t)\big)$ とすると、線積分は次のようにも表せる。

\begin{split}
\int_C f(z) \diff z = \int_{t_a}^{t_b} f\big( z(t) \big) \ff{\diff z(t)}{\diff t} \diff t \\
\,
\end{split}

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複素関数のパラメータ表示

複素線積分を考える前に、複素関数をパラメータ(媒介変数)表示する方法について考えてみましょう。

基本に立ち返り、複素数が極形式で表せることを思い出します。

すなわち、$z=x+iy=r(\cos\q+i\sin\q)$ とでき、それぞれの変数の対応関係は、

$$
\left\{
\begin{split}
&\, x=r\cos\q \EE
&\, y=r\sin\q
\end{split}
\right.
$$

とできます。(ただし、$x,y,r,\q$ を実数とします)

ここで、$t$ なる実数を媒介変数として、$t=\DL{ \tan\ff{\q}{2} }$ という関係があるとすると、

$\DL{ \cos\q = \ff{1-t^2}{1+t^2}, \sin\q = \ff{2t}{1+t^2} }$ とできるので、

$$
\left\{
\begin{split}
&\, x=r\cdot\ff{1-t^2}{1+t^2} = x(t)\EE
&\, y=r\cdot\ff{2t}{1+t^2} = y(t)
\end{split}
\right.
$$

と変形できます。

動径の長さ $r$ についても $r(t)$ とできるので、$x(t), y(t)$ とパラメータ表示できることが分かります。

これより、複素関数 $f(x,y)$ は $f(x(t), y(t))$ とパラメータを使って表せることが分かります。

複素関数のパラメータ表示

複素関数 $f(z)$ は実数のパラメータ $t$ を用いて、

\begin{split}
f(t)=x(t)+iy(t)
\end{split}

とパラメータ表示できる。

ただし、$x(t), y(t)$ を実関数とする。

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複素線積分の定義

複素関数 $f(z)$ を1価の連続関数とし、$z$ 平面上の2点 $t_a$ と $t_b$ を結ぶ滑らかな曲線 $C$ を考えます。

複素関数の積分とは

今、$f(z)$ をパラメータ表示によって $f(z(t))$ とできるとすると、複素線積分は次のように定義されます。

複素線積分の定義

$f(z)$ を1価の連続関数とし、$t_a$ と $t_b$ を繋ぐ曲線 $C$ を考える。

このとき、

$\DL{\int_C f(z) \diff z}$

を $C$ に沿った線積分と定義し、$C$ を積分路と呼ぶ。

また、$f\big(z(t)\big)$ とすると、線積分は次のようにも表せる。

\begin{split}
\int_C f(z) \diff z = \int_{t_a}^{t_b} f\big( z(t) \big) \ff{\diff z(t)}{\diff t} \diff t \\
\,
\end{split}

※ 複素線積分の定義の中に現れる複素関数の微分についてはこちらで詳しく解説しています。

たとえば、$f(z)=z^2, z=t+it$ $(0 \leq t \leq 2) $ であるとき、その線積分は次のように計算できます。

\begin{split}
\int_{0}^{2}f(z)\diff z =&\int_{0}^{2}z^2\ff{\diff z}{\diff t}\diff t \EE
=&\int_{0}^{2}(t+it)^2(1+i) \diff t \EE
=&\,(1+i)\int_{0}^{2}(2it)\diff t \EE
=&\,2(-1+i)\left[ \ff{1}{2}t^2 \right]_{0}^2 \EE
=&\,4(-1+i)
\end{split}

ここでは、積分路を $0\to 2$ の方向としましたが、$2\to 0$ と辿ると、積分の性質より、$-4(-1+i)$ となり、符号が反転します。

このように、積分路を逆にすると、積分の符号が反転する性質があります。

周回積分とは?

図のように、経路 $C$ の始点と終点が一致しているとき、経路 $C$ は閉じているといい、

複素関数の周回積分

その経路に沿った積分を周回積分と呼びます。なお、周回積分は次のように書かれます。

\begin{split}
&\oint_C f(z) \diff z
\end{split}

特に断らない限り、$C$ の方向は正方向(反時計回り)とします。また、時計回りの方向を負の方向とし $C^{-1}$ と表します。

複素線積分の周回積分が美しい性質を持つことから、重要な計算対象となります。

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線積分とは?

積分は二次元的な広がりを持った面の面積として説明されてきたため、一次元の線積分が登場してもイメージが分かりません。

ここでは、複素線積分のイメージについて解説します。

複素線積分の様子を図示すると、次のようになります。

図では、$x, y$ 平面上に描かれた曲線が積分路 $C$ であり、積分路の各値に対応した $f(z)$ が出力されます。

複素線積分の模式図

ここで、$C$ 上の微小区間 $\D z$ を考えると、この区間にて $f(z)$ は一定と近似できるため、面積は、$f(z)\D z$ とできます。

$C$ を $n$ 個に分割しそれぞれの区間ごとに足し合わせると、

\begin{split}
\sum_{j=0}^n f(z_j)\D z_j
\end{split}

となります。そして、$\D z\to 0$ とした極限が線積分の結果であることから、

\begin{split}
\int_C f(z) \diff z=\lim_{\D z\to 0}\sum_{j=0}^n f(z_j)\D z_j
\end{split}

という式が成り立ちます。

線積分という名前が付いていますが、その背景に面積が存在していることが分かります。

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複素関数線積分の公式

複素線積分には以下のような性質があります。

複素線積分の性質

$f(z), g(z)$ を複素関数、$k$ を複素定数、$C$ を積分路として、複素線積分には次のような性質がある。

\begin{split}
&(1)\quad \int_C\big\{ f(z)\pm g(z) \big\}\diff z = \int_C f(z) \diff z\pm \int_C g(z) \diff z \\[6pt]
&(2)\quad \int_C k f(z)\diff z = k\int_C f(z) \diff z \\[6pt]
&(3)\quad \int_{C^{-1}} f(z)\diff z = -\int_C f(z) \diff z \\[6pt]
&(4)\quad \int_{C_1+C_2} f(z)\diff z = \int_{C_1} f(z) \diff z+\int_{C_2} f(z) \diff z \\
\,
\end{split}

公式(1)と(2)については積分の定義から明らかです。

(3)については、$C$ の経路を $t_a\to t_b$ とすると、$C^{-1}$ は $t_b\to t_a$ と逆転します。

これを式にすると次のようになりますが、

\begin{split}
\int_{C^{-1}} f(z)\diff z &= \int_{t_b}^{t_a} f(z)\ff{\diff z}{\diff t} \diff t \\[6pt]
\end{split}

積分の性質から、積分区間をひっくり返すと、符号が反転するため、

\begin{split}
\int_{t_b}^{t_a} f(z)\ff{\diff z}{\diff t} \diff t&= -\int_{t_a}^{t_b} f(z)\ff{\diff z}{\diff t} \diff t \\[6pt]
\therefore \int_{C^{-1}} f(z)\diff z&= -\int_C f(z)\diff z
\end{split}

となります。

また、図のように区分的に滑らかな曲線 $C$(有限個の滑らかな曲線を連結してできる曲線のこと)で複素線積分を行うと、それぞれの区間ごとの積分に分解できることが知られています。

区分的に滑らかな曲線

\begin{split}
\int_{C=C_1+C_2} f(z)\diff z = \int_{C_1} f(z) \diff z+\int_{C_2} f(z) \diff z
\end{split}

これより、公式(4)が成立します。

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複素線積分の例題

次のような積分路にて、複素線積分を計算します。

積分路の模式図

最初に、$f(z)=\bar{z}$ についての線積分を考えます。

原点から $2+i$ までの積分路を考え、$C_1\to C_2$ の積分路と $C_3$ の2つのパターンでの複素線積分を考えます。

まず、$C_1\to C_2$ の線積分ですが、これは積分公式(4)より、次のように分解できます。

\begin{split}
\int_C \bar{z}\diff z &= \int_{C_1} \bar{z}\diff z+\int_{C_2} \bar{z}\diff z
\end{split}

$C_1$ と $C_2$ の経路は $t$ を使って $z=t$ $(0\leq t\leq 2)$、$z=2+it$ $(0\leq t \leq 1)$ とできるので、線積分を次のように計算できます。

\begin{split}
\int_{C_1} \bar{z}\diff z+\int_{C_2} \bar{z}\diff z &= \int_{0}^2 t\diff t+\int_{0}^1 (2-it)\cdot(i)\diff t \\[6pt]
&=\ff{5}{2}+2i
\end{split}

次に、$C_3$ の経路は $z=t+\DL{\ff{i}{2}t}$ $(0\leq t \leq 2)$ と表せるため、線積分は次のように求められます。

\begin{split}
\int_{C_3} \bar{z}\diff z &= \int_{0}^2 \left(t-\ff{i}{2}t\right)\left(1+\ff{i}{2} \right)\diff t \\[6pt]
&=\left(1+\ff{i}{2} \right)\left[ \ff{1}{2}\left(1-\ff{i}{2} \right)t^2 \right]_0^2 \\[6pt]
&= \ff{5}{2}
\end{split}

積分路の始点と終点が一致していても、積分の計算結果は一致するとは限らないことが分かります。

一方、$f(z)=z$ についての線積分を考えます。

$C_1\to C_2$ についての線積分は次のように計算できます。

\begin{split}
\int_{C_1}z\,\diff z+\int_{C_2} z\,\diff z &= \int_{0}^2 t\diff t+\int_{0}^1 (2+it)\cdot(i)\diff t \\[6pt]
&= \ff{3}{2}+2i
\end{split}

$C_3$ の積分路での計算は、

\begin{split}
\int_{C_3} z\,\diff z &= \int_{0}^2 \left(t+\ff{i}{2}t\right)\left( 1+\ff{i}{2} \right)\diff t \\[6pt]
&=\left(1+\ff{i}{2} \right)\left[\ff{1}{2}\left(1+\ff{i}{2} \right)t^2 \right]_0^2 \\[6pt]
&= \ff{3}{2}+2i
\end{split}

とできます。このとき積分結果は一致することが分かります。

$z$ と $\bar{z}$ での計算結果の違いは偶然生まれたのではなく、被積分関数が正則かどうかが鍵を握っています。

このような違いが生じる理由にはコーシーの積分定理が関係しています。詳しくはこちらで解説しています。

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周回積分の性質

最後に周回積分を計算し、その性質について見ていきます。

今回は、$z^n$($n$:整数)の周回積分について見ていきます。

積分路として原点を中心とした半径が $r>0$ の円を考えます。

今、積分路は $re^{i\q}$ とできるので、$z^n$ についての周回積分は次のように計算できます。($r$ は定数であるため、$\q$ のみの積分となります)

円形の積分路

\begin{split}
\oint_{C} f(z)\diff z &= \int_{0}^{2\pi} \big(re^{i\q}\big)^n(ire^{i\q}) \diff \q \\[6pt]
&= ir^{(n+1)} \int_{0}^{2\pi} e^{i(n+1)\q}\diff\q
\end{split}

ここでオイラーの公式を用いると、

\begin{split}
&ir^{(n+1)} \int_{0}^{2\pi} e^{i(n+1)\q}\diff\q\\[6pt]
=& ir^{(n+1)}\int_{0}^{2\pi} \big\{\cos(n+1)\q+i\sin(n+1)\q\big\}\diff\q\\[6pt]
=& ir^{(n+1)}\left[\ff{1}{n+1}\sin(n+1)\q-\ff{i}{n+1}\cos(n+1)\q \right]_0^{2\pi}
\end{split}

と変形でき、$n\neq -1$ とすると、

\begin{split}
\oint_{C} f(z)\diff z = 0\quad (n\neq -1)
\end{split}

となります。

一方、$n=-1$ のとき、

\begin{split}
\oint_{C} f(z)\diff z &= i \int_{0}^{2\pi} 1\cdot \diff\q \EE
&= 2i\pi
\end{split}

となります。

以上より、

$$
\oint_{C} z^n \diff z =
\left\{
\begin{split}
&\,0\quad(n\neq -1) \\[6pt]
&\, 2i\pi \quad(n=-1)
\end{split}
\right.
$$

となることが分かります。

この式から重要なことが2点あります。すなわち、$z^n$ の周回積分の結果は円の半径に依存しないこと、そして、$n\neq -1$ の条件下では積分結果が $0$ となることです。

この結果は $z^n$ のみで起きる特殊な事例ではなく、ある条件を満たす周回積分では必ずこのようになることが知られています。

詳しくはコーシーの積分定理にて解説しています。

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