複素速度ポテンシャルの合成|渦対・湧き出し吸い込み対とは?

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一様流湧き出しのようなポテンシャル流れを重ね合わせる操作のことを、ポテンシャル流れの合成といいます。

今回はポテンシャル流れの合成について解説し、単純な流れを合成することで複雑な流れも再現できることを示します。

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ポテンシャル流れの合成とは?

ポテンシャル流れ複素関数論の立場から記述すると正則関数となることが知られています。そのようになる理由について簡単に解説します。

今、二次元ポテンシャル流れに限定すると、その流速 $u,v$ は以下のように記述できます。

$$
\left\{
\begin{split}
u &= \ff{\del \psi}{\del y} \EE
v &= -\ff{\del \psi}{\del x}
\end{split}
\right.
$$

$$
\left\{
\begin{split}
\,u &= \ff{\del \varphi}{\del x}\,\, \EE
\,v &= \ff{\del \varphi}{\del y}\,\,
\end{split}
\right.
$$

ただし、$\psi$ を流れ関数、$\varphi$ を速度ポテンシャルとします。

これらを整理すると、

$$
\left\{
\begin{split}
\,\ff{\del \varphi}{\del x} &= \ff{\del \psi}{\del y} \EE
\,\ff{\del \varphi}{\del y} &= -\ff{\del \psi}{\del x}
\end{split}
\right.
$$

となります。これはコーシー・リーマンの方程式と一致するため、

\begin{split}
w(z)=\varphi+i\psi
\end{split}

複素関数正則関数であると言えます。したがって、ポテンシャル流れ正則関数で特徴づけられることが分かります。正則関数同士の和、$w_1+w_2$ も正則関数であることが知られていますが、これを流体力学的に解釈すると、『渦無し流れを重ね合わせた流れも渦無し流れである』ということになります。

したがって、簡単な流れがいくつか知られているとき、これらを重ね合わせることで複雑な流れを得ることができるのです。このようなポテンシャル流れの重ね合わせをポテンシャル流れの合成と呼びます。今回は、ポテンシャル流れの合成のいくつかの例について示します。

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湧き出し・吸い込み対とは?

複素平面上において、実軸上のある点 $(a,0)$ に強さが $k$ の湧き出しを設置し、原点対称の位置 $(-a,0)$ に強さ $k$ の吸い込みを設置したとします。このとき、それぞれの複素速度ポテンシャルは次のように表せます。 (ただし、$k>0$)

$$
\left\{
\begin{split}
\,w_1&=k\log (z-a) \EE
\,w_2&=-k\log(z+a)
\end{split}
\right.
$$

渦対

流線を図示すると明瞭になりますが、原点を挟んで一対の湧き出しと吸い込みが存在している様子を確認できます。なお、このよう流れを湧き出し・吸い込み対と呼びます。

流れの合成

湧き出し・吸い込み対複素速度ポテンシャルを合成することで、湧き出し・吸い込み対の流れを求めることができます。すなわち、湧き出し・吸い込み対の複素速度ポテンシャル $w$ は、

\begin{split}
w&=w_1+w_2\EE
&=k\log (z-a)-k\log(z+a) \EE
&=k\log\ff{z-a}{z+a}
\end{split}

となります。

湧き出し・吸い込み対の流れを可視化するため、流れ関数を導くことを考えます。すなわち、$z=re^{i\q}$ として

\begin{split}
w&= k\log\ff{re^{i\q}-a}{re^{i\q}+a} \EE
&= k\log\ff{r_1e^{i\q_1}}{r_2e^{i\q_2}} \EE
&= k\log{\ff{r_1}{r_2}}+ik(\q_1-\q_2)
\end{split}

とできて、流れ関数が $\varphi=k(\q_1-\q_2)$ と導けます。流線は $\varphi=const.$ としたときの曲線群なので、湧き出し・吸い込み対の流線が次のようになることが分かります。

湧き出し・吸い込み対

湧き出し・吸い込み対の流線は正負の電荷が作り出す電気力線の様子と似ています。

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渦対とは?

次に実軸上の点 $(a,0)$ に強さが $k$ の回転流を設置し、原点対称の位置 $(-a,0)$ に強さ $k$ の逆回転の回転流を設置したとします。このとき、それぞれの複素速度ポテンシャルを次のように表せます。 (ただし、$k>0$)

$$
\left\{
\begin{split}
\,w_1&=ik\log (z-a) \EE
\,w_2&=-ik\log(z+a)
\end{split}
\right.
$$

渦の様子を図示すると次のようになります。原点を挟んで二つの渦糸が存在する様子から、この流れのことを渦対と呼びます。

渦対

渦対に対しても流れの合成を考えると、

\begin{split}
w&=w_1+w_2\EE
&=ik\log\ff{re^{i\q}-a}{re^{i\q}+a} \EE
&= ik\log\ff{r_1e^{i\q_1}}{r_2e^{i\q_2}} \EE
&= -k(\q_1-\q_2)+ik\log{\ff{r_1}{r_2}}
\end{split}

となり、流れ関数を $\varphi=\DL{k\log{\ff{r_1}{r_2}}}$ と導けます。この流れ関数を元に渦対の流線を描くと、図のようになります。

渦対の模式図

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一様流と湧き出しの合成

流速が $U$ の一様流と、強さが $k$ の湧き出しの流れの合成について考えます。この場合の複素速度ポテンシャルは次のように表せ、

\begin{split}
w&=Uz+k\log z
\end{split}

ここから流線を描くと、下図のようになります。

一様流と湧き出しの流線

図から分かるように、ある曲線を境に流線の振る舞いが変わる様子が確認できます。この境界線は内側と外側を分離する”壁”と見ると、この流れは一様流中に置かれた物体回りの流れの様子を表すと考えることができます。

ところで、この流れはポテンシャル流れであるため、ベルヌーイの定理を適用できます。この事実を踏まえて、物体回りの圧力について考えていきます。

よどみ点

今まで、複雑な流れの流速を求めることは困難でしたが、複素速度を利用することで流速の計算が可能になります。すなわち、複素速度 $q$ が次のように求められ、

\begin{split}
q=\ff{\diff w}{\diff z} &= U+\ff{k}{z}
\end{split}

これより、実軸上で速度が $0$ となる座標を $-\DL{\ff{k}{U}}$ と求められます。

一様流と湧き出しのよどみ点

この座標は物体の先端に相当し、また、流線は先端で二つに分かれます。このの位置にて流速が $0$ となるため、よどみ点、あるいは流線が2つに分かれることから岐点と呼びます。

ところで、ポテンシャル流れに対してはベルヌーイの定理を適用できるため、密度を $\rho$ , 無限遠での圧力を $p_{\infty}$ として、$z$ における流速 $|q|$ と圧力 $p$ に関する

\begin{split}
p_{\infty}+\ff{1}{2}\rho U^2=p+\ff{1}{2}\rho |q|^2 \EE
\end{split}

という等式を導けます。複素速度を利用することで、任意の位置での圧力が比較的簡単に求められるようになったことが分かります。

なお、よどみ点においては $|q|=0$ であるため、よどみ点の圧力 $p_0$ を、

\begin{split}
p_0=p_{\infty}+\ff{1}{2}\rho U^2
\end{split}

と求められます。

このように、ポテンシャル流れの合成は複雑な流れを理解するための一助となります。

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