渦度とは? |渦度と渦運動の表し方の数学【流体力学】

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流体の引き起こす興味深い現象の根本にが関わっていることが知られています。

今回は、渦についての解説と、渦度と呼ばれる量についての解説を行います。

渦度とは?

速度ベクトルを $\B{v}=(u,v,w)$ として、
渦度ベクトル $\B{\zeta}$ (ゼータ)を次のように定義する。

\begin{split}
\B{\zeta} &= \RM{rot}\,\B{v} = \nabla\times \B{v} \EE
&= \left( \ff{\del w}{\del y}-\ff{\del v}{\del z} \right)\B{i}+\left( \ff{\del u}{\del z}-\ff{\del w}{\del x} \right)\B{j}+\left( \ff{\del v}{\del x}-\ff{\del u}{\del y} \right)\B{k} \\
\,
\end{split}

なお、渦度と似た概念に循環という物理量があります。循環についての詳細はこちらを参照ください。

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渦とは?

流体の関わる現象にはが非常に大きな役割を果たします。そのため、は流体力学の複雑な現象を解明するための鍵となります。

飛行機の後方に生じる渦

ここでは、渦を次のような流れとして定義します。

の定義

ある点周りを回る流れを渦と呼ぶ

なお、渦を旋回流と呼ぶこともあります。

渦の見られる現象として鳴門海峡の渦潮が有名ですが、渦は特別な存在ではなく、至るところに存在します。実際、運動する物体の後方には渦が発生することを観察することができます。

渦が生まれるメカニズム

渦は、流れに速度差があるとき生じる可能性があります。逆に、速度差が無いとき渦は生じません。

最もイメージし易いのは、対向する流れが出会う場合です。

渦の模式図

さて、対向する互いの流れには速度勾配に起因したせん断力が生じるため、その進路は時々刻々変化します。

このとき、進路の変化が連続的に起きるため、最終的には螺旋状の渦が形成されます。

この例から分かるように、渦が新たに形成されるためには、粘性の存在が不可欠となります。

逆に言うと、粘性の存在しない理想流体に新たに渦が形成されることはありません。

※ 理想流体中に渦が存在することは可能です。ただし、新たに形成されることはありません。

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流体の変形と回転

渦の流れについての数学的な取り扱いを考えていきます。

先程の渦に長方形を乗せると、流れに沿って菱形に変形していく様子を観察できます。

流体粒子の変形

この変形は伸び変形せん断変形回転の3つの変形に分解することができます。

流体粒子の変形の3要素

すなわち、3つの基本的な変形を合成することで、渦の変形を計算することができるのです。

では、これらの基本的な変形について見ていきましょう。

伸び変形の計算式

最も単純な変形である伸び変形から解説します。

簡単のため、一次元の運動の伸び変形について考えます。

伸び変形の模式図

図のように、線分$\RM{AB}$(長さ $\diff x$)が流体の中を運動しており、$\diff t$ 秒後に $\RM{A’B’}$ に変形したとします。

このときの長さ方向の変化が伸び変形となります。

さて、左端 $\RM{A}$ にて流体が速度 $u$ で運動しているとすると、右端 $\RM{B}$ での流速は $\DL{u+\ff{\del u}{\del x}\diff x}$ とできます。

したがって、$\diff t$ 秒後の伸び変形量 $\eps_x$(エプシロン)は、

\begin{split}
\eps_x &= \left( u+\ff{\del u}{\del x}\diff x \right)\diff t-u\diff t \\[6pt]
&= \ff{\del u}{\del x}\diff x\diff t
\end{split}

と求められます。

これより、単位長さ・単位時間当たりの伸び変形量 $\dot{\eps}_x$ を次のようにできます。

\begin{split}
\dot{\eps}_x &= \ff{\del u}{\del x}
\end{split}

$y$ 軸、$z$ 軸方向にも同様に計算でき、

\begin{split}
\dot{\eps}_y &= \ff{\del v}{\del y} \\[6pt]
\dot{\eps}_z &= \ff{\del w}{\del z}
\end{split}

となります。

ただし、各方向の速度を $u, v, w$ とします。

せん断変形の計算式

次にせん断変形について解説します。

せん断変形こちらで解説したように、直交する二辺の成す角度の変化として定義されます。

この定義に基づいてせん断変形の数学的な表示について考えていきます。

せん断変形の模式図

直交した二辺が変形していく様子を考えます。

今、$\RM{A}$ 点での$y$ 軸方向の速度を $v$ とすると、$\RM{B}$ 点での速度を $v+\DL{\ff{\del v}{\del x}\diff x}$ とできます。

速度差があるため、$\diff t$ 秒後の線分 $\RM{A’B’}$ には角度がつきます。

この角度を $\q_{A’B’}$ とすると、弧度法より $\q_{A’B’}$ を次のように求められます。

\begin{split}
\diff x \cdot\q_{A’B’} &= \left( v+\ff{\del v}{\del x}\diff x \right)\diff t-v\diff t \\[6pt]
\therefore\,\,\, \q_{A’B’} &= \ff{\del v}{\del x}\diff t
\end{split}

これより、単位時間当たりの角度変化(=せん断ひずみ速度)は、

\begin{split}
\dot{\q}_{A’B’} &= \ff{\del v}{\del x}
\end{split}

とできます。

同様にして線分 $\RM{A’C’}$ の単位時間当たりの角度変化を求めると、

\begin{split}
\dot{\q}_{A’C’} &= \ff{\del u}{\del y}
\end{split}

と表せます。

これより、正味のせん断ひずみ速度 $\dot{\gamma}_{xy}$ は、

\begin{split}
\dot{\gamma}_{xy} &= \ff{\del v}{\del x}+\ff{\del u}{\del y}
\end{split}

となります。

$y$ 軸、$z$ 軸方向にも同様に計算でき、

\begin{split}
\dot{\gamma}_{yz} &= \ff{\del w}{\del y}+\ff{\del v}{\del z} \\[6pt]
\dot{\gamma}_{zx} &= \ff{\del u}{\del z}+\ff{\del w}{\del x}
\end{split}

となります。

回転変形の計算式

最後に回転変形について解説します。

回転変形では二つの辺を剛体として考えます。

回転変形

さて、$\RM{AB}$ と $\RM{AC}$ の単位時間当たり角度変化は、次のように計算できます。

角速度については、先程の計算結果を利用でき、

それぞれ、

$$
\left\{
\begin{split}
&\dot{\q}_{AB} = \ff{\del v}{\del x} \\[6pt]
&\dot{\q}_{AC} = -\ff{\del u}{\del y}
\end{split}
\right.
$$

と求められます。

ただし、時計回りの回転を負、反時計回りの回転を正で表すと約束します。

以上より、単位時間当たりの正味の角度変化 $\zeta_z$ を次のように計算できます。

\begin{eqnarray}
\zeta_z = \ff{\del v}{\del x}-\ff{\del u}{\del y} \tag{1}
\end{eqnarray}

計算された角度変化は、$z$ 軸回りの回転角の変化であることに注意してください。

『 $\zeta_z$ は $z$ 軸周りの角速度である。』と言いたいところですが、実は $\zeta_z$ は角速度ではありません。

角速度と $\zeta_z$ の関係については次の節で考えていきます。

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渦度と角速度の関係

$\zeta_z$ が角速度とならない理由は、回転運動を剛体の運動として考えた点にあります。

状況を明確にするため、円板上での運動を考えましょう。

剛体の回転運動の様子

角速度 $\omega$(オメガ)で回転している剛体円板上の二点 $\RM{A, B}$ があるとき、それぞれの速度 $v_A, v_B$ は、

$$
\left\{
\begin{split}
&v_A = r_A\,\omega \EE
&v_B = r_B\,\omega
\end{split}
\right.
$$

とできます。

このように、剛体円板上の回転方向の速度は中心からの距離に比例して増加するのです。

さて、中心から $r$ 離れ、$x$ 軸から $\q$ の角度にあるポイントでの速度を考えます。

回転運動の様子

この速度を $x, y$ 方向に分解すると、次のように表示できます。

$$
\left\{
\begin{split}
&u = -r\,\omega\sin\q \EE
&v = r\,\omega\cos\q
\end{split}
\right.
$$

さて、このポイントでのデカルト座標系での座標を $(x,y)$ とすると、極座標系との対応関係より、

$x=r\cos\q, y=r\sin\q$ であるので、

$$
\left\{
\begin{split}
&u = -\omega\,y \EE
&v = \omega\,x
\end{split}
\right.
$$

となります。

これを式(1)に代入すると、

\begin{split}
\zeta_z &= \ff{\del v}{\del x}-\ff{\del u}{\del y} = 2\omega
\end{split}

と求められます。

これより、角速度は $\DL{\ff{1}{2}\zeta_z}$ であることが分かりました。

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渦度とは?

先述の結果から分かるように、$\zeta_z$ は角速度とは異なる量であることが分かりました。

このままでは不便なため、この量を渦度という名前で呼ぶことにします。

※ 渦度は角速度と同じ次元となります。

渦度は $x,y,z$ 軸のそれぞれで計算でき、次のようになります。

$$
\left\{
\begin{split}
&\zeta_x = \ff{\del w}{\del y}-\ff{\del v}{\del z} \\[6pt]
&\zeta_y = \ff{\del u}{\del z}-\ff{\del w}{\del x} \\[6pt]
&\zeta_z = \ff{\del v}{\del x}-\ff{\del u}{\del y}
\end{split}
\right.
$$

このように、渦度はベクトル量であり、単位ベクトルを用いて、

\begin{split}
\zeta_x\,\B{i}+\zeta_y\,\B{j} + \zeta_z\,\B{k}
\end{split}

と表すことができます。

ところで、渦度は微分演算子 $\nabla$(ナブラ)外積を用いて次のようにも計算できます。

\begin{split}
\nabla\times \B{v} &=
\begin{vmatrix}
\B{i} & \B{j} & \B{k} \EE
\DL{\ff{\del}{\del x}} & \DL{\ff{\del}{\del y}} & \DL{\ff{\del}{\del z}} \EE
u & v & w
\end{vmatrix} \EE
&= \left( \ff{\del w}{\del y}-\ff{\del v}{\del z} \right)\B{i} \EE
&\qquad+\left( \ff{\del u}{\del z}-\ff{\del w}{\del x} \right)\B{j} \EE
&\quad\qquad+\left( \ff{\del v}{\del x}-\ff{\del u}{\del y} \right)\B{k} \EE
\therefore\,\nabla\times \B{v} &= \RM{rot}\,\B{v}
\end{split}

確かに渦度を求められることが分かります。

なお、$\nabla\times \B{v}$ は $\RM{rot}$(ローテーション)を使って、$\RM{rot} \B{v}$と表します。

$\RM{rot}$ の具体的な計算例についてはこちらで紹介しています。

渦度

速度ベクトルを $\B{v}=(u,v,w)$ として、
渦度ベクトル $\B{\zeta}$ を次のように定義する。

\begin{split}
\B{\zeta} &= \RM{rot}\,\B{v} = \nabla\times \B{v} \EE
&= \left( \ff{\del w}{\del y}-\ff{\del v}{\del z} \right)\B{i}+\left( \ff{\del u}{\del z}-\ff{\del w}{\del x} \right)\B{j}+\left( \ff{\del v}{\del x}-\ff{\del u}{\del y} \right)\B{k} \\
\,
\end{split}

※ 太字の表記はベクトルを表します。詳細についてはこちらで解説しています。

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