ヘルムホルツの渦定理とは?|渦と循環の理論②

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ヘルムホルツの渦定理は渦菅の渦度に関する定理であり、次のような内容を持ちます。

ヘルムホルツの渦定理

流体を非粘性かつバロトロピー流体とし、外力は保存力のみとする。
このとき、以下のヘルムホルツの渦定理が成立する。

第一定理:『渦菅の強さは時間に依らず一定』       

第二定理:『渦線は個体壁で終わるか、閉じた輪を形成する』

第三定理:『非回転の流体要素は非回転のままである』   

ヘルムホルツの渦定理はケルビンの循環定理より導かれる定理ですが、応用上重要な内容を含みます。

なお、ヘルムホルツの渦定理は、ラグランジュの渦定理ケルビンの循環定理の言い換えとなっています。

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ヘルムホルツの第一定理

さて、回転流の強さは渦度として表せます。渦度は向きと大きさを持つため、ベクトルとして表せます。

そして、渦度ベクトルは回転流の張る面に対し法線方向に向いています。

渦線・渦菅・渦糸とは?

複数の速度ベクトルの包絡線を流線と呼ぶように、複数の渦度ベクトルを結んだ包絡線のことを渦線と呼びます。

渦線

そして、複数の渦線が集まって菅を成しているとき、この渦線群の束を渦菅と呼びます。

さらに、非常に細い渦菅のことを渦糸と呼びます。

渦線・渦菅・渦糸とは?

渦線:複数の渦度ベクトルを結んだ包絡線 

渦菅:複数の渦線が集まって菅を成したもの

渦糸:非常に細い渦菅          

渦線と循環

ここで、渦菅について考えます。

渦菅と渦線

渦菅上を一周するような閉曲線 $C_1,C_2$ を設定し、それらの閉曲線を繋ぐ経路 $D_1,D_2$ も設定し、経路 $C_1D_1C_2D_2$ を考えます。

図から分かるように、渦菅を横切るような渦線は無いため、曲面 $C_1D_1C_2D_2$ を貫く渦線も無いと言えます。

したがって、この曲面を貫く方向の渦度は $0$ と言えます。ゆえに、循環と渦度の関係式を用いて次の関係が成立し、$C_1D_1C_2D_2$ を巡る循環が $0$ であると結論できます。

$$
\left\{
\begin{split}
\,\,&\iint_S \B{\zeta}\cdot \B{n}\,\diff S = 0 \EE
\,\,&\Gamma=\oint_{C_1D_1C_2D_2}\B{v} \cdot \diff \B{v} = \iint_S \B{\zeta}\cdot \B{n}\,\diff S
\end{split}
\right.
$$

\begin{split}
\therefore\,\, \Gamma = 0
\end{split}

ただし、$S$ を $C_1D_1C_2D_2$ に囲まれた閉曲面、$\B{n}$ を $S$ の法線ベクトルとします。

さて、循環に関しての周回積分は次のように分解でき、

\begin{split}
0&=\oint_{C_1D_1C_2D_2}\B{v} \cdot \diff \B{v}\EE
&=-\oint_{C_1}\B{v} \cdot \diff \B{v}+\oint_{D_1}\B{v} \cdot \diff \B{v}+\oint_{C_2}\B{v} \cdot \diff \B{v}+\oint_{D_2}\B{v} \cdot \diff \B{v}\EE
\end{split}

さらに、$D_1, D_2$ の経路は互いに逆の経路であるため打ち消し合い、

\begin{split}
0&=-\oint_{C_1}\B{v} \cdot \diff \B{v}+ \B{v}+\oint_{C_2}\B{v} \cdot \diff \B{v}\EE
&\quad\therefore\,\,\oint_{C_1}\B{v} \cdot \diff \B{v}=\oint_{C_2}\B{v} \cdot \diff \B{v}
\end{split}

となります。

これから分かるように、渦菅に沿った循環は閉曲線の取り方に関わらず常に同じであることが分かります。

言い換えると、渦菅に対して循環の大きさは固有になると言えます。この循環を渦菅の強さと言います。

なお、渦度は循環と関係を持つため、渦菅の中の渦度も変化しないと言えます。このとき、渦菅の断面を通過する平均の渦度の大きさ $\omega$ と断面積 $\sigma$ の積は渦菅の強さと一致します。すなわち、$\Gamma=\omega \sigma$ となります。

ヘルムホルツの第一定理

さて、流体が非粘性バロトロピー流体であり、そして外力が保存力のみであるとき、ケルビンの循環定理が成立するため、時間に関わらず $C_1D_1C_2D_2$ 上の循環は $0$ と言えます。

ゆえに、渦菅の強さは時間に変わらず一定であると言えます。この結論をヘルムホルツの第一定理といいます。

ヘルムホルツの第一定理

ケルビンの循環定理が成立するとき、

『渦菅の強さは時間に依らず一定』

となる。これをヘルムホルツの第一定理と言う。

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ヘルムホルツの第二定理

ヘルムホルツの第一定理より、渦菅の強さは時間に依らず一定であることが言えます。

さて、渦菅が流体の中の途中で途切れていたとしても、端点は流れに沿って移動していきます。端点の循環はケルビンの循環定理より常に一定であるため、渦菅はどんどん伸びていくことになります。

つまり、渦菅は流体の中で端点は持たず、個体壁に到達するか、端点の無い環、すなわちトロイダル状の渦環を形成することになります。

ヘルムホルツの第二定理

『渦線は個体壁で終わるか、閉じた輪を形成する』

竜巻が地表に向かって伸びていく理由や、空気砲から飛び出す空気が渦環を形成する理由が説明されます。

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ヘルムホルツの第三定理

ヘルムホルツの第三定理を示すために、少し準備を行います。

渦度方程式

渦度を用いて、以下のナビエ・ストークス方程式を書き換えることを考えます。

\begin{split}
\ff{\del \B{v}}{\del t} + (\B{v}\cdot \nabla)\B{v} &= -\ff{1}{\rho}\nabla p +\nu\nabla^2 \B{v}+ \B{f}
\end{split}

渦度を導入するため、両辺に $\RM{rot}$(ローテーション)を掛けて、

\begin{split}
\ff{\del (\nabla\times\B{v})}{\del t} + \nabla\times(\B{v}\cdot \nabla)\B{v} &= -\nabla\times\ff{1}{\rho}\nabla p +\nu\nabla^2 (\nabla\times\B{v})+ \nabla\times\B{f}
\end{split}

となり、ここで渦度の定義より、

\begin{split}
\ff{\del \B{\zeta}}{\del t} + \nabla\times(\B{v}\cdot \nabla)\B{v} &= -\nabla\times\ff{1}{\rho}\nabla p +\nu\nabla^2 \B{\zeta}+ \nabla\times\B{f} \EE
\end{split}

とできて、右辺第一項はローテーションの重要な性質より $0$ となります。

移流項 $(\B{v}\cdot \nabla)\B{v}$ はこちらで示したように $\DL{(\B{v}\cdot \nabla)\B{v}=-\B{v}\times\B{\zeta}+\ff{1}{2}\nabla\B{v}^2}$ とできるので、上式はさらに、

\begin{split}
\ff{\del \B{\zeta}}{\del t} &= \RM{rot}(\B{v}\times\B{\zeta})+\nu\nabla^2 \B{\zeta}+\RM{rot}\B{f}
\end{split}

と整理できます。この方程式を渦度方程式と呼びます。

渦度方程式

\begin{split}
\ff{\del \B{\zeta}}{\del t} &= \RM{rot}(\B{v}\times\B{\zeta})+\nu\nabla^2 \B{\zeta}+\RM{rot}\B{f} \\
\,
\end{split}

非粘性流体を考えると、渦度方程式の粘性項を無視でき、また作用している外力が保存力であるとすると、$\RM{rot}\B{f}=\nabla\times(\nabla U)$ とでき、ローテーションの重要な計算結果より、$\nabla\times(\nabla U)=0$ となります。

したがって、非粘性流体かつ保存力のみが作用する流体に対しての渦度方程式は、

\begin{eqnarray}
\ff{\del \B{\zeta}}{\del t} &= \RM{rot}(\B{v}\times\B{\zeta})\tag{1}
\end{eqnarray}

となります。

ヘルムホルツの第三定理

式$(1)$の右辺については、ベクトル解析の公式より、

\begin{split}
\RM{rot}(\B{v}\times\B{\zeta}) = -(\B{v}\cdot\nabla)\B{\zeta}+(\B{\zeta}\cdot\nabla)\B{v}+\B{v}\RM{div}\B{\zeta}-\B{\zeta}\RM{div}\B{v}
\end{split}

となり、右辺第三項については $0$ となり、第四項は連続方程式より、

\begin{split}
\RM{rot}(\B{v}\times\B{\zeta}) = -(\B{v}\cdot\nabla)\B{\zeta}+(\B{\zeta}\cdot\nabla)\B{v}-\ff{\B{\zeta}}{\rho}\ff{D \rho}{D t}
\end{split}

と変形できます。これより、式$(1)$ を

\begin{split}
\ff{\del \B{\zeta}}{\del t} &= -(\B{v}\cdot\nabla)\B{\zeta}+(\B{\zeta}\cdot\nabla)\B{v}-\ff{\B{\zeta}}{\rho}\ff{D \rho}{D t} \EE
(\B{\zeta}\cdot\nabla)\B{v}&=\ff{\del \B{\zeta}}{\del t}+(\B{v}\cdot\nabla)\B{\zeta}+\ff{\B{\zeta}}{\rho}\ff{D \rho}{D t} \EE
&=\ff{D \B{\zeta}}{D t}+\ff{\B{\zeta}}{\rho}\ff{D \rho}{D t}\\[6pt]
\therefore\,\, &\ff{D }{D t}\left( \ff{\B{\zeta}}{\rho} \right)=\left(\ff{\B{\zeta}}{\rho}\cdot\nabla \right)\B{v}
\end{split}

と整理できます。粘性流体のとき上式に粘性項が加えられます。なお、この方程式をヘルムホルツの渦方程式と呼びます。

ヘルムホルツの渦方程式

渦度ベクトルを $\B{\zeta}$、粘度を $\nu$、密度を $\rho$、速度ベクトルを $\B{v}$ として、
ヘルムホルツの渦方程式は以下のように表される。

\begin{split}
\ff{D }{D t}\left( \ff{\B{\zeta}}{\rho} \right)=\left(\ff{\B{\zeta}}{\rho}\cdot\nabla \right)\B{v}+\nu\nabla^2 \B{\zeta}+\RM{rot}\B{f}\\
\,
\end{split}

ヘルムホルツの渦方程式の左辺は、流れと共に渦度が運ばれていくときの変化率を表しています。右辺第一項は渦の伸長項と呼ばれ、渦菅が軸方向に伸びた時、正となり結果として渦度が流れと共に変化することになります。

非粘性かつバロトロピー流体、そして保存力のみが作用すると、ヘルムホルツの渦方程式は

\begin{split}
\ff{D }{D t}\left( \ff{\B{\zeta}}{\rho} \right)=\left(\ff{\B{\zeta}}{\rho}\cdot\nabla \right)\B{v}
\end{split}

上式とヘルムホルツの第一定理より、初期において渦度が $0$ のときはその後も渦度は $0$ のままであり、渦度が初期に存在していればその後も存在し続け、大きさも変化しないことが言えます。

以上より、ヘルムホルツの第三定理を次のように述べられます。

ヘルムホルツの第三定理

『非回転の流体要素は非回転のままである』

なお、渦菅が伸びたとしても、ヘルムホルツの第一定理より渦菅の強さは常に一定のため、渦度が増加すれば渦菅の断面積が小さくなるという関係になります。

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