ベルヌーイの定理|理論と導出【流体力学のエネルギー保存則】

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物理学の一分野である流体力学でも、エネルギー保存則は当然成立します。

このうち、理想流体の定常流におけるエネルギー保存則を表す式が、ベルヌーイの定理と呼ばれます。

ベルヌーイの定理

重力加速度を$g$、流体の密度を$\rho$、流線上のある点での流速を$v$、圧力を$p$とすると、

理想流体定常流に対して以下の関係式が成立する。

\begin{split}
p + \ff{1}{2}\rho v^2 + \rho g z = const. \\
\,
\end{split}

今回は、流体力学の基礎となるベルヌーイの定理の導出過程と、より一般的な場合でも成立する理論について解説します。

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定常流における微小要素の運動

ベルヌーイの定理を導出するにあたり、定常流であることを前提とします。

さて、流線に沿った微小要素の運動を考えることで、ベルヌーイの定理を導するのですが、

その前に、定常流では流線の時間変化が無いため、微小要素に関しての意味ある運動方程式が成立するのか?

という点が気になる方も居るでしょうから、この点から確認しておきましょう。

さて、時刻$t_1$において微小要素が流線上のある点にあるとします。この微小要素が$\D t$秒後に図のような位置に移ったとします。

流線と微小要素の運動

流線上の接線は、その位置での速度の大きさと向きを表すため、各時刻での微小要素の速度を書き込むと、上図のようになります。

これより、定常流であっても微小要素が移動すると速度の変化が起きることが分かります。

すなわち、定常流であっても加速度が存在し、微小要素の運動方程式が成立することが分かります。

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ベルヌーイの定理の導出

それでは、流線に沿った流体の微小要素(=流体粒子)の運動について考えましょう。

流線と流体の微小要素

具体的には、流線上の微小要素についての運動方程式ニュートンの第二法則)を考えます。

すなわち、微小要素の質量を$m$、加速度を$a$、作用する力を$F$とすると以下の式が成立します。

\begin{eqnarray}
F=ma
\end{eqnarray}

では、流線に沿って移動する微小要素に対して運動方程式を考えてみましょう。

なお、流体は理想流体完全流体)であるとします。

流線と運動方程式の関係

断面積$\diff A$、長さ$\diff s$の微小要素が、流線に沿って速度$V$で移動しているとします。

また、流体の密度を$\rho$(ロー)、重力加速度を$g$とします。

さて、流線に沿った微小要素の加速度$a$は$\DL{\ff{\diff V}{\diff t}}$と表せます。

加速度は流線の接線方向と法線方向に分解することができて、それぞれを$a_t, a_n$とすると、次のように表せます。

$$
\left\{
\begin{eqnarray}
a_t &=& \ff{\diff V}{\diff t} = \ff{\diff V}{\diff s}\cdot\ff{\diff s}{\diff t} = V\cdot\ff{\diff V}{\diff s} \EE
a_n &=& \ff{V^2}{R}
\end{eqnarray}
\right.
$$

なお、ある位置での流線の曲率半径を$R$とします。

※ 第一式の展開では$V=\DL{\ff{\diff s}{\diff t}}$であることを利用しています。

さらに、微小要素の断面に $p(z), p(z-\diff z)$ の圧力が作用しており、大きさ$\rho g (\diff A \diff s)$の重力が作用しているとします。

すると、流線に沿った方向に作用する正味の力$F$は、

\begin{eqnarray}
F=p(z)\diff A\,-p(z\,-\diff z)\diff A\,-\rho g (\diff A \diff s)\sin \theta
\end{eqnarray}

となります。

※ 接線と重力の成す角を$\theta$(シータ)と置いています。

ここで、テイラー展開を利用すると、圧力差を次のように近似できます。

\begin{eqnarray}
p(z)- p(z-\diff z) = -\ff{\diff p}{\diff z}\diff z
\end{eqnarray}

これより、先述の式を

\begin{eqnarray}
F=-(\diff p + \rho g\sin \theta\diff s )\diff A
\end{eqnarray}

と整理できます。

ところで、断面に対して圧力が垂直に作用していることを前提にしていますが、これはパスカルの原理より正当化できます。詳しくは、浮力についての回で解説しています。

話を戻すと、これらの結果から、流線の接線方向に沿った微小要素の運動方程式は、

\begin{eqnarray}
(\rho \diff A\diff s)\left( V\cdot\ff{\diff V}{\diff s} \right) =-(\diff p + \rho g\sin \theta\diff s )\diff A
\end{eqnarray}

とできます。

これを整理して、

\begin{eqnarray}
\ff{\diff p}{\diff s} + \rho g\sin \theta\diff s+\rho\left( V\cdot\ff{\diff V}{\diff s} \right) =0
\end{eqnarray}

となり、

今、$\sin\theta = \DL{\ff{\diff z}{\diff s}}$の関係があるため、上式はさらに、

\begin{eqnarray}
\ff{\diff p}{\diff s} + \rho g\, \diff z+\rho\left( V\cdot\ff{\diff V}{\diff s} \right) =0
\end{eqnarray}

とできます。

運動方程式を展開することで、微分方程式を導くことができました。

流線に沿ってこの微分方程式を積分すると、次のように計算できます。

\begin{split}
&\quad\int\left(\ff{\diff p}{\diff s} +\rho V\cdot\ff{\diff V}{\diff s} \right)\diff s + \int \rho g \diff z\EE
&= p + \ff{1}{2}\rho V^2 + \rho g z = const.
\end{split}

※ 流線に沿った方向の積分と、垂直方向の積分を実行しています。

計算結果を見ると分かるように、積分結果が定数となることが分かります。

この結果は定常流の理想流体に対して常に成立します。

この式を発見者の名を冠してベルヌーイの式、またはベルヌーイの定理と呼びます。

ベルヌーイの定理

重力加速度を$g$、流体の密度を$\rho$、流線上のある点での流速を$v$、圧力を$p$とすると、理想流体定常流に対して、以下の式が成立する。

\begin{split}
p + \ff{1}{2}\rho v^2 + \rho g z = const. \\
\,
\end{split}

この式をベルヌーイの定理と呼び、左辺第一項を静圧、第二項を動圧と呼ぶ。

ベルヌーイの定理に関して、第二項と第三項を次元解析すると、これが単位体積当たりのエネルギーであることに気が付きます。

この視点で圧力を見ると、圧力も単位体積当たりのエネルギーであることが分かります。

すなわち、ベルヌーイの定理は流線に沿ったエネルギー保存則であると言えます。

さて、ベルヌーイの定理の第一項を静圧、第二項を動圧と呼びます。

第二項を動圧と呼ぶ理由は、ベルヌーイの定理を圧力に関する式として見ると $\DL{\ff{1}{2}\rho v^2}$ も圧力と見なせるため、運動に伴い発生する圧力であることから、動圧と呼ばれます。

読者の中には静圧の物理的な実態について疑問に思った方もいるでしょう。

ここでは、静圧の正体について解説します。

まず、前提として、ベルヌーイの定理は、理想流体かつ定常流、同一流線上にて成立することを頭に入れておいてください。

さて、浮力について考察した回では、圧力が水深と流体の密度に比例して増加すると説明しました。

このことから、密度が変化しない理想流体では、流速に関係なく、同一の水深の静圧が一定になるのでは?と、考えるのは無理もないことです。

圧力の生じる根本的なメカニズムに立ち返ることで、この疑問に答えることができます。

圧力の生じる根本的なメカニズムは、気体分子運動論より説明されます。

詳しくはこちらで解説していますが、エッセンスだけを抜き出すと、圧力 $p$ は次のような比例関係で表せます。

\begin{split}
p \propto \ff{1}{2}m\langle v^2 \rangle
\end{split}

ただし、$\langle v^2 \rangle$ は気体分子全体の二乗平均速度を表します。

このことから、流体に含まれる分子全体のランダムな運動(平均的な運動)により圧力が生じることが分かります。

個々の分子は激しく運動していますが、流体全体のマクロな集団としては静止しているため、人間には流れが無いように感じるのです。

一方、流体の特定方向に流れがある状態とは、個々の分子もその方向に速度を持っていることを意味します。(専門的にはこの運動をドリフト運動と呼びます)

つまり、流体のミクロな運動は、ランダムな成分とドリフト運動の成分に分けることができるのです。

静圧の正体は、このランダムな運動により生じる圧力であり、具体的には二乗平均速度を使って表される成分なのです。

簡単のため、同一流線上に$\RM{A}$点と $\RM{B}$点があり、$\RM{A}$点では流速が $0$ で $\RM{B}$ 点では流速が $V$ であったとすると、

$\RM{A}$点での分子のエネルギーは、$\DL{\ff{1}{2}m\langle v^2 \rangle}$ と表せ、

$\RM{B}$点での分子のエネルギーは、$\DL{\ff{1}{2}m\langle v’^2 \rangle}+\ff{1}{2}mV^2$ と表せます。

ただし、$\RM{B}$点での二乗平均速度を $\langle v’^2 \rangle$ とします。

今、外力は作用していないため、2点のエネルギーは等しく、

\begin{split}
\ff{1}{2}m\langle v^2 \rangle=\ff{1}{2}m\langle v’^2 \rangle+\ff{1}{2}mV^2
\end{split}

となります。

これより、$\DL{\ff{1}{2}m\langle v’^2 \rangle< \ff{1}{2}m\langle v^2 \rangle}$ であることが分かります。

以上より、流速が変化すると、二乗平均速度が変化し、静圧も変化することが分かります。

トリチェリの実験から言えるように、圧力は水柱の高さを使って表すことができます。これより、圧力を水頭(head)と呼ぶ慣習もあります。この慣習に従い、ベルヌーイの定理の第一項は圧力ヘッド、第二項を速度ヘッド、第三項を位置ヘッドと呼ぶこともあります。なお、これらの合計は総ヘッドと呼ばれます。

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ベルヌーイの定理の一般化

ベルヌーイの定理理想流体に限って成立する理論です。

では、より一般の場合、具体的には非粘性圧縮性流体に関して成立するエネルギー保存則を導ていきましょう。

→粘性とは?

まず、定常流の中に固定されたある領域(検査体積)を設定します。

この検査体積に対して流入・流出するエネルギーの収支を考えます。

検査体積に対して流入・流出するエネルギー

まず、単位体積当たりに流体が持つエネルギー$e$は、ベルヌーイの定理を参考にすると、次のように表せます。

\begin{eqnarray}
e = u+\ff{1}{2} v^2 + g z
\end{eqnarray}

ただし、右辺第一項の$u$は圧力ではなく、内部エネルギーを表します。(圧力や温度などから計算されるエネルギーです)

なお、圧縮性流体に関して考えているため、$p, v, z$に加えて$\rho$も変数となることに注意してください。

さて、単位時間当たりに流入する質量を$\dot{m}_1$、流出する質量を$\dot{m}_2$とすると、単位時間当たりに流入・流出するエネルギーを

$$
\left\{
\begin{eqnarray}
\dot{m}_1 e_1 \EE
\dot{m}_2 e_2 \EE
\end{eqnarray}
\right.
$$

と表せます。→時間変化を表すニュートン記法

ところで、検査体積内のエネルギーの時間変化 $\dot{E}_{CV}$は、単位時間当たりに流入するエネルギーと流出するエネルギーの差と等しくなるため、

\begin{eqnarray}
\dot{E}_{CV}=\dot{m}_2 e_2\,- \dot{m}_1 e_1 \tag{1}
\end{eqnarray}

という式が成立します。

この式はエネルギー保存則の言い換えでもあります。

ところで、エネルギー$E$の中身を、熱エネルギーと仕事に分けて考えます。

具体的には、エネルギーを熱エネルギー$Q$と仕事$W$の二つに分類でき、

\begin{eqnarray}
E=Q+W
\end{eqnarray}

と表せます。(熱力学第一法則を適用しています)

エネルギーの出入り

仕事は、さらにポンプ等の外部から与えられる仕事$W_a$と、圧力差による仕事$W_b$の二つに分けられ、

\begin{eqnarray}
E=Q+(W_a+W_b)
\end{eqnarray}

とできます。

これより、エネルギーの時間変化を

\begin{eqnarray}
\dot{E}=\dot{Q}+(\dot{W}_a+\dot{W}_b)
\end{eqnarray}

と表せます。

今、

\begin{eqnarray}
\dot{W}_b = pAv
\end{eqnarray}

であるので、

$\dot{E}_{CV}$は次のように計算できます。

\begin{split}
\dot{E}_{CV} &=(\dot{Q}_{2}\,-\dot{Q}_{1})+(\dot{W}_{a2}\,-\dot{W}_{a1})\EE
&\qquad\,\,\, +(-p_2A_2v_2+p_1A_1v_1)
\end{split}

改めて$\dot{Q} = \dot{Q}_{2}\,-\dot{Q}_{1}, \dot{W} = \dot{W}_{a2}\,-\dot{W}_{a1}$として、式(1)も用いて整理すると、

\begin{split}
&\,\,\,\,\,\,\dot{m}_2\left( u_2+\ff{1}{2} v_2^2 + g z_2 \right)\,- \dot{m}_2\left( u_1+\ff{1}{2} v_1^2 + g z_1 \right) \EE
&=\dot{Q} +\dot{W} +(-p_2A_2v_2+p_1A_1v_1)
\end{split}

とできます。

今、$m = \rho V$のため、$\dot{m} = \rho Av$となります。

したがって、上式はさらに

\begin{split}
&\,\,\,\,\,\,\dot{m}_2\left( u_2+\ff{1}{2} v_2^2 + g z_2 \right)\,- \dot{m}_2\left( u_1+\ff{1}{2} v_1^2 + g z_1 \right) \EE
&=\dot{Q} +\dot{W} +\left( -\dot{m}_2\ff{p_2}{\rho_2}+\dot{m}_1\ff{p_1}{\rho_1} \right)
\end{split}

と整理できます。

最後に、流体が定常流であるとすると、連続の式について解説したときのように、$\dot{m}_1 = \dot{m}_2$が成立するため、

\begin{split}
\left(u_2+\ff{p_2}{\rho_2}-u_1-\ff{p_1}{\rho_1} \right) + \ff{1}{2}(v_2^2 \,- v_1^2) + g(z_2\,-z_1) =\ff{\dot{Q}}{\dot{m}_1} + \ff{\dot{W}}{\dot{m}_1}
\end{split}

とでき、$\DL{\dot{q} = \ff{\dot{Q}}{\dot{m}_1}, \dot{w} = \ff{\dot{W}}{\dot{m}_1}}$とし、

さらに、エンタルピー$h$なる物理量を次のように定義します。

エンタルピー

単位体積当たりの内部エネルギーを$u$、圧力を$p$、密度を$\rho$として、エンタルピーを次のように定義する。

\begin{split}
h = u+\ff{p}{\rho} \\
\,
\end{split}

以上より、圧縮性流体のエネルギー保存則を次のように導けます。

非圧縮性流体のエネルギー保存則

エンタルピーを$h$、流体の密度を$\rho$、流速を$v$、圧力を$p$とし、単位時間当たりの熱エネルギーを$\dot{q}$、仕事を$\dot{w}$とすると圧縮性流体のエネルギー保存則は次のように与えられる。

\begin{split}
(h_2\,-h_1)+\ff{1}{2}\left( \rho_2v_2^2\,-\rho_1v_1^2 \right)+(\rho_2 z_2\,-\rho_1 z_1) = \dot{q}+\dot{w} \\
\,
\end{split}

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