壁近傍の流れと鏡像の原理|鏡像の理論と流体力学

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流れの近傍に壁が存在するとき、流れが壁を越えて行かないよう、様々な境界条件を課してやる必要があります。

壁を表す境界条件の設定はかなり面倒であるため、発想を変えてやる必要があります。

壁を『ゼロ流線』と見なすことが境界条件の設定を解決するための突破口となります。すなわち、ある流れと同じ流れを対称な位置に置くことで、その中間点はちょうどゼロ流線となります。

このように、流れを鏡写しの位置に置くことで壁を再現するため、この手法は鏡像と呼ばれています。今回は、平行な壁に対する鏡像の手法について解説します。

壁近傍に関する流れの鏡像

正則関数を $f(z)$ として、壁近傍の流れの複素速度ポテンシャル $w$ は次のように表せる。

\begin{split}
w=f(z)+\overline{f(\bar{z})} \\
\,
\end{split}

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鏡像とは?

冒頭で説明したように、流れの近傍に壁が存在するとき、流れが壁を越えて行かないよう、様々な境界条件を課してやる必要があります。

左図のような、壁面近傍に湧き出しがあるような単純な流れでも、数式で表すとなると結構大変です。

これは、壁面での流速が $0$ という条件を数学的に表現するのが大変なためです。

鏡像と境界条件の置換

そこで発想を変えて、個体壁が流速が $0$ の等高線であると考えます。このように発想を変えると、仮想的な湧き出しを壁と線対称の位置に設定すれば良いことに気が付きます。

こうすることで、境界条件の面倒な設定を考えることなく、個体壁を再現できるのです。

この手法は鏡像と呼ばれ、流体力学や電磁気学などで多用されます。なお、複素関数論における鏡像についてはこちらで解説しています。

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鏡像の数学的な背景

前節にて、鏡像を用いて壁を再現する方法について直感的な説明をしました。ここでは、鏡像法の数学的な背景についてより詳しく解説します。

さて、今まで円柱周りの流れ平板周りの流れ翼周りの流れで見てきたように、渦無し流れポテンシャル流れ)では流線はその他の流線を横切って流れないという性質を持ちます。

したがって、流線をある種の個体壁と見なすことができ、実際、円柱周りの流れ複素速度ポテンシャルは、

\begin{split}
w=Uz+\ff{Ua^2}{z}
\end{split}

となりますが、流線の値が $0$ となるポイントをプロットすると、見事に半径 $a$ の円柱が現れます。このように上手く流れを配置することで、個体壁の様子を再現できるのです。

具体例だけでは柔軟性に欠けるため、ここでは、個体壁を再現する一般的な方法について簡単に説明します。

さて、ポテンシャル流れは正則関数として表現できるため、ある正則関数 $f(z)$ について考えます。そして、その複素共役の関係にある関数 $\overline{f(z)}$ を用意します。

このとき、それらの和、$F(z)=f(z)+\overline{f(z)}$ は実数となります。

すなわち、$F(z)=\psi+i\varphi$ とし、その虚部 $\RM{Im}F=\varphi$ は常に $0$ となると言えます。このように、共役な正則関数を用意することで、個体壁を再現できるのです。

この性質を利用して、壁近傍の流れを再現する鏡像の方法について考えていきます。

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壁近傍の流れと鏡像の原理

壁近傍の流れを再現する鏡像の方法について考えていきます。

いきなりですが、一般論を考えます。まず、$\psi, \varphi$ を関数として、正則関数 $f(z)$ を、

\begin{split}
f(z)=\psi(z)+i\varphi(z)
\end{split}

と表します。次に、$x,y$ を実数として $z=x+iy$ とすると上の関数を

\begin{split}
f(z)=\psi(x,y)+i\varphi(x,y)
\end{split}

とできます。

ここで、壁近傍の流れについての鏡像は、次のように表現することができます。

『速度ベクトルが実軸($x$ 軸)に関して対称である』

これを数学的に表します。速度を $q=u+iv$ という複素関数で表すとすると、上の条件は、

\begin{eqnarray}
q^{*}(z)=u-iv
\end{eqnarray}

と表すことができます。

さて、$q^{*}(z)$ の鏡像の複素速度ポテンシャルを表す複素関数 $f^{*}$ は複素速度の定義から考えると

\begin{split}
f^{*}&=\psi(x,-y)-i\varphi(x,-y)
\end{split}

とできて、これより、$f^{*}=\overline{f(\bar{z})}$ という関係になることが言えます。なお、$f^{*}$ は正則関数であるため、鏡像により作られた新たな流れもポテンシャル流れであることが分かります。

壁近傍に関する流れの鏡像

正則関数を $f(z)$ として、壁近傍の流れの複素速度ポテンシャル $w$ は次のように表せる。

\begin{eqnarray}
w=f(z)+\overline{f(\bar{z})} \tag{1}\\
\,
\end{eqnarray}

※ $\overline{f(\bar{z})}$ が正則関数であることは次のように示せます。

$f^{*}$ を $\bar{z}$ について偏微分すると、

\begin{split}
\ff{\del f^{*}}{\del \bar{z}}=\ff{\del }{\del \bar{z}}\overline{f(\bar{z})}=\overline{ \ff{\del}{\del z }f(\bar{z})}
\end{split}

と変形できますが、$f$ は仮定より正則関数であるため、正則関数の判定条件を当然満たしており、$\DL{\ff{\del }{\del z} f(\bar{z})}=0$ と言えます。

よって、

\begin{split}
\ff{\del f^{*}}{\del \bar{z}}=0
\end{split}

となり、$f^{*}$ は正則関数と言えます。

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湧き出しと吸い込みの鏡像

式$(1)$により、壁近傍の流れを再現できることを確かめます。

まずは、湧き出し吸い込みの鏡像について考えます。

初めに、湧き出しの鏡像を考えます。湧き出しの鏡像は $k>0$として式 $(1)$より

\begin{eqnarray}
w&=k\log(z-z_0)+k\overline{\log(\overline{z-z_0})}
\end{eqnarray}

となりますが、共役複素数の性質より、

\begin{eqnarray}
w&=k\log(z-z_0)+k\log(z-\bar{z_0})
\end{eqnarray}

と整理できます。この複素速度ポテンシャルから流線を描くと下図のようになります。

湧き出しの鏡像

図より、実軸が個体壁として確かに再現されていることが確認できます。

次に、吸い込みの鏡像は $k<0$ として同様の議論から次のように表せます。

\begin{eqnarray}
w&=k\log(z-z_0)+k\log(z-\bar{z_0})
\end{eqnarray}

このときの流線も湧き出しと同様になります。

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回転流の鏡像

同様にして回転流の壁近傍の流れについて考えます。この鏡像は、式$(1)$より次のように表示できます。ただし、$k$ を実数とします。

\begin{eqnarray}
w&=ik\log(z-z_0)+\overline{ik\log(\overline{z-z_0})} \EE
\end{eqnarray}

整理すると、複素ポテンシャルを次のように記述できます。

\begin{eqnarray}
w&= ik\log(z-z_0)-ik\log(z-\bar{z_0})
\end{eqnarray}

この流れの流線を描くと下図のようになります。

回転流の鏡像

この場合もやはり実軸を挟んで対称となっており、壁が再現されていることが分かります。

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二重湧き出しの鏡像

最後に、二重湧き出しの壁近傍の流れについて考えます。

二重湧き出しの鏡像は式$(1)$より $k$ を複素定数として、

\begin{eqnarray}
w&= \ff{k}{z-z_0}+\ff{\bar{k}}{z-\bar{z_0}}
\end{eqnarray}

のように表せます。

このときの流線を描くと図のようになります。

二重湧き出しの鏡像

複雑な流線となっていますが、やはり実軸が壁として再現されていることが分かります。

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